グラスハート
若木未生

 

■以前いたバンドをクビになった現役女子高校生・西条朱音は、天才音楽家藤谷直季の誘いによっておっかなびっくりしながらも彼のバンド『テン・ブランク』にドラムとして参加することになった。朱音憧れのギタリスト高岡尚、傍若無人のソロプレイが身上のキーボーディスト坂本一至と共になんとか野外ライブを成功させ、ファーストシングル発売までこぎつける。
■その二週間後、ファーストアルバムのレコーディングが慌ただしく始まった。しかし非常識人が揃うこのバンド、すんなりと事が進むはずもなく……。
間延びしているんだけどしかし軽妙な語り口調で描かれていくロックバンドの世界は理解不能のぎりぎりのところで、言葉にならない言葉を紡ぎだすことに成功していると思う。しかも嫌みじゃない。
■この本は天才・藤谷直季の天才的言動に振り回されつつ、西条朱音をはじめとする個性の強いキャラクターたちが暴れるという、このシリーズおなじみの楽しさを毎回堪能できる。それでいてマンネリ化してないのは、実は単純にストーリーの進みが遅すぎるせいではないだろうか。でもそれは単調ということではなくて、キャラクターの内面に踏み込みすぎているというか、むしろそちらを重点的に描きたいという著者の意識があって、それでそんな感じなのである。グラスハートという本には、何かしらの創作活動をしている人が感じる空気みたいなものが固定されているように思う。