【7月のトピック:Total Quality】

98年7月のトピックは,Total Qualityを取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.

 

1.商品学における「品質」

「品質」ということに関して研究している人達は品質管理の分野の人達に限られているわけではありません.吉田富義氏は1988年に同友館から「現代商品論」という本を出版していますが,日本規格協会からも「おはなし商品学」という本も出版し,1987年の1月から12月までの11回,「標準化と品質管理」という雑誌に「おはなし商品学」と題するシリーズで商品や品質に関して興味ある報告がなされています.このシリーズの1回から最終回までのテーマは以下のようなものです.

第1回:日本の“商品化社会”

第2回:商品を‘みる’眼

第3回:商品と分類思考

第4回:商品の多様化

第5回:商品概念の刷新

第6回:使用価値と品質

第7回:商品の品質と価格

第8回:ネーミングとブランディング

第9回:ネーミングとブランディング(つづき)

第10回:商品のイメージ(色と包装)

最終回:理論商品学の関心と課題

この各回のテーマを見ただけでも,品質管理に興味を持っている人にとっては面白い内容の話であることが想像できるのではないでしょうか.

私が商品学における品質の考え方に興味を持ったのは,吉田富義氏が「現代商品学」の中で,使用価値という観点と地球環境からの考察を含めて品質を考えていることです.その後商品学の他の学者の本も読みましたが興味ある報告がなされています.特に吉田富義氏は地球環境から採取される原材料の段階での品質を考え,そして,この原材料を加工してできる部品の品質,部品が組み合わされてできる製品の品質,製品が顧客に販売される段階での商品の品質,この商品が使用される段階での使用品の品質,使用された商品が再利用される段階での再生品の品質,さらに,廃棄される段階での廃棄品品質までに品質を分解しています.

商品と製品の違いについて考えることも必要ですが,そのこと以上に原材料から廃棄品までの一連の関係を考えることが必要だと思います.そして,この考え方をさらに発展させると「メイド・イン・ジャパン」という本に書かれている「逆工場」と呼ばれる考え方に通じるものがあると考えられるからです.

 

2.逆工場という考え方

品質管理の分野での品質は,当初,適合品質と設計品質の2つに分けて考えることが提唱されていました.吉田富義氏は原材料品質から,部品品質,製品品質,商品品質,使用品品質,再生品品質,廃棄品品質と分けて考えることを提唱しています.品質管理の分野における品質を氏の考え方と結合して考えると,原材料品質から製品品質までが主体であり,特に製品品質に重点が置かれていたと思います.つまり,製品品質の適合品質と設計品質という狭い範囲の品質を中心に論議がされてきたと考えられます.

しかし,ISO9000シリーズが話題になり,PL法が問題になり,ISO14000が叫ばれている今日においては,製品品質のみならず廃棄品の状態での品質も考える必要が出てきています.逆工場という考え方は,地球環境からの資源の採取をやめ,廃棄品から原材料を生産するという考え方です.既にプラスチックの廃材から重油を生産するという工場についてはNHKでも取り上げて放送されています.これは発砲スチロールやペットボトルを粉砕したプラスチック廃材を,350度から360度の間に温度を制御して蒸し焼きにすることによって,Aクラスの重油が生産されるという報道です.

自動車のフォード氏は,鉄鉱石を投入して自動車ができるという,鉄鉱石から自動車までを一貫したラインを考えていたようですが,この考え方は製品までで,自動車が使用され,再利用され,廃棄され,さらに原材料にまで戻るサイクルまでは考えていなかったと思います.しかし,これからの製品では,廃棄後の処理を考えたモノ作りが必要となると考えられます.

缶コーラや缶コーヒーなどのアルミ缶やスチール缶の空缶は,分別収集されるようになりましたが,これらの缶はアルミニュームや鉄に戻すことが必要になります.この際に缶に印刷されたインクがどのような影響をもたらすのかについても,缶コーヒーなどを生産する段階で考えておくことが必要だということです.紙などについても,再生紙が以前から注目されるようになっていますが,紙を扱う製品を生産する段階で,最終処理だけでなく,逆工場を考えた設計をすることが必要になります.

売れるかどうかという商品としての品質だけでなく,使用した時の品質を考えることがPLにも関係してきます.さらに,再生の容易性なども考慮した再生品品質を考えることも必要ですし,廃棄のしやすさや逆工場における原材料としての品質を考えることが要求されるようになると思います.

 

3.GoodsとBads

英語では品物のことをグッズ(Goods)といいますが,文字どおり「良い物」の複数形です.つまりグッズとは良い物を指しているのです.逆に言えば良くない物はグッズとは言えないのかもしれません.しかし,実際には良くない物であってもグッズと言われているようです.

最近はこのグッズだけでなく,バッズ(Bads)ということも問題になってきています.従来,グッズは良い物ですから,売れ残りが生じてもそれほど問題視はされなかったのです.しかし,生産した製品(グッズ)が商品とはならず売れ残った場合,ただでは廃棄することができなくなってきています.廃棄するためには費用がかかるようになってきたのです.つまり,グッズを生産したつもりでバッズを生産しているかもしれないのです.

企業が顧客に提供する提供財を英語では「goods and service」と記述することが多いのですが,goodではないものを生産している場合が考えられるのです.グッズを生産したつもりでバッズを生産すれば,企業に損失をもたらすだけでなく,社会にも損失をもたらすことになります.バッズを生産してしまったことによる損失を企業が負担すればよいのかというと,それだけでは済まされなくなっているのです.

例えば,今は超臨界液体の利用が考えられていますが,この以前に用いられていた溶剤であるフロンは地球環境を破壊していることはよく知られています.フロンを用いたスプレーなどの使用によって地球環境が破壊されるのです.フロンが大気のオゾン層を破壊するのです.フロンを用いた多くのスプレー製品は,多くの顧客にとって便利な物であり,私自身も今から考えると多用していたようです.使用適合性(fitness for use)という観点で品質を解釈すれば良い品質のものとなります.

しかし,このスプレー製品はグッズではなくバッズだったのです.人工甘味料のチクロが問題になったこともあります.最近急激に普及した携帯電話やPHSも顧客にとっては非常に便利な物ですが,使用されているアンテナが人体に与える影響については明らかになっていません.現状の基準は自動車用のアンテナから決められているものですが,人体にあれだけ接近しての使用が問題になるかどうかはっきりしていないのです.携帯電話やPHSもグッズではなくバッズかもしれません.

落としたとしても割れない陶磁器のお皿やカップがあります.これらを使用している顧客にとってはありがたい商品です.しかし,産業廃棄物処理業者にとっては処理が大変困難なしろものです.使用品品質は良いのかもしれませんが,廃棄品品質はけっして良い物ではありません.前述したプラスチック製品も使用する人にとってはグッズかもしれませんが,処理する人にとってはダイオキシンを作り出すバッズだったのです.

製品を開発する段階で製品品質のみならず,使用品品質,廃棄品品質まで考慮されていれば,本当の意味で高品質のモノとなるのではないでしょうか.ISO9000では,工場が存在することによって,その工場が産出するモノ(entity)の品質を保証することが義務づけられます.従来のような狭い範囲での品質ではなく,広範囲に渡って品質を考えることが必要になっているのです.

 

4.QFDにおける品質

品質機能展開(QFD)では品質をどの程度の範囲まで考えているのでしょうか.品質機能展開の考え方が世の中に広まる以前は,品質管理の世界では品質を適合品質と設計品質に分けて考えていました.そして,当初の品質管理は製造品質(適合品質)に主眼が置かれていました.何故かというと製造品質はばらつきますが,設計品質はばらつくことがないからです.つまり,設計品質と合致する,ばらつきのない製品を作るための管理活動から始められたため,製造品質の方に主眼が置かれたのです.

そして,設計品質どおりで,ばらつきの少ない製品を作ることに成功しました.この成功の陰には統計的方法の活用を始めとする諸活動が貢献したことはいうまでもありません.しかし,設計品質どおりのモノが生産できるようになっても,設計品質自体が良くなければ生産したものは売れません.そこで,設計品質の一歩手前に存在すると考えられる企画品質の重要性がでできたのです.さらに,この企画品質を何に基づいて考えるのかということになり,要求品質という考え方が生まれました.

つまり,市場の要求する品質を要求品質として捉え,この要求品質に対する市場の重要度や期待の程度から企画品質を考え,この企画品質に合致するように設計品質を設定し,設計品質に適合する製品を生産することによって適合品質を高めるという考え方です.適合品質が設計品質に適合しているだけでなく,市場の要求に対しても適合していることが求められるようになったのです.

例えば,筆記具としてのボールペンを考えてみましょう.ボールペンを製造するためには,そのペンの軸の長さ,軸の直径などについて具体的な寸法が決まっていなければなりません.軸の長さを140mm,軸の直径を8mmと決めたとします.この値が設計品質となりますが,この値はばらつくことがありません.この値を狙って実際に射出成形機などを使用してボールペンの軸を製造します.するとできた製品の軸の長さや軸の直径は多少のばらつきが生じます.どんなに精度の高い機械を使用して生産したとしても必ずばらつきが生じます.

実際に出来上がった製品の寸法などが,設計品質にどれだけ合致しているかということから,適合品質という考え方が るのです.そして日本の場合,この適合品質については狙いどおりにすることができるようになったのです.ばらつきはあっても,規格の幅に対して余裕を持った製造ができるようになったのです.

しかし,何故軸の長さが140mm,軸の直径が8mmと決まったのでしょうか.何を根拠に,その値を決めたのでしょうか.

ボールペンの軸の長さや直径は,「持ちやすい」「長い間書いていても疲れない」など,顧客がボールペンを購入する際の潜在的な要求を前提にし,その要求に合致するように決められるべきです.顧客は「色がカラフルだから」「形が可愛らしいから」「面白そうな形をしているから」などの理由でボールペンを購入するかもしれせん.これら全ての要求には答えられないかもしれませんが,多くの要求に答えられるように設計されたり,差別化を考えて特別な要求を満たすように設計されます.

QFDでは市場の要求である要求品質から始まり,要求品質に対する企画である企画品質,この企画品質を満足する設計品質,設計品質どおりの物を作るまでの一連の流れを設計段階で確保するための活動が行われます.しかし,前述した廃棄品品質までカバーしているかというと多少疑問が残ります.どちらかというと原材料から製品までの品質が主流であったと思います.

 

5.Total Quality

これからの品質管理では,あらゆる角度からの品質の考察が必要になると思います.品質保証という言葉についても,何の品質を保証するのかを考えるべきだと思うのです.製造品質(適合品質)を保証するだけでなく,設計品質も保証しなければなりません.企画品質も要求品質も保証しなければなりません.誰が誰に対して保証するのかも考える必要がありますが,品質という言葉で一括りにするのではなく,具体的な品質を考えての保証が必要になると思います.

TQCという言葉はA.V.ファイゲンバウム氏(Armand Vallin Feigenbaum:ご本人はフィーゲンバウムと発音されているが日本の書物ではファイゲンバウムという記述が多いようです)が始めて使った言葉です.日本のTQCとファイゲンバウム氏のTQCとは大分違いがあるようですが,Totalという言葉をQCに冠したのはファイゲンバウム氏です.

TQCは日本語では総合的品質管理と訳されています.そして,全社的品質管理(CWQC:company-wide quality control)などという言葉も生まれ,企業グループでのQC活動としてグループ・ワイドということからGWQCなどという言葉も生まれました.この背景には製造部門のみにおけるQC活動から,営業部門などを含めた全社を巻き込んだQC活動へと活動の領域を広げることによる幅広い成果を求められたということがあると思います.

現在,そしてこれからの品質を考えると,品質を保証する対象が国内にとどまらず,海外にまで広がっていること考慮する必要があると思います.日本国内の基準をカバーするだけでなく,輸出先国の基準にも準拠する必要があります.ISOという国際規格によって世界レベルで基準を統一しようとする動きもありますが,EUの市場統合などを考えるとそれ程遠い未来ではないと思います.

PL問題が日本に訴えていることは,使用品品質の確保についてでしょうし,ISO14000では廃棄品品質を問題にしていると思います.原材料品質から,部品品質,製品品質,商品品質,使用品品質,再生品品質,廃棄品品質と分けて品質を捉え,これらの全ての品質を確保し確認し証明するという品質保証が必要になると思います.

さらに,各品質(原材料品質,部品品質,製品品質など)の製造品質を保証するだけでなく,設計品質も要求品質も保証する活動が必要になると思います.この保証を設計段階で行わなくては時代の進歩についていけなくなると思います.コストを低減する場合でも,生産性を向上する場合でも,品質を向上することがもっとも早く目的に到達する道なのです.

是非,品質に関する問題を考える時には,品質という抽象のレベルの高い言葉で考えるのではなく,一歩踏み込んだ,製造品質,設計品質などという言葉や,製品品質,使用品品質などという具体的な言葉で考え,総合的な立場で品質の向上を目指して欲しいと思います.

 

【過去のトピック一覧】

1998年6月のトピック:暗黙知と形式知