【8月のトピック:変化の時代】

98年8月のトピックは,「変化の時代」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.

 

1.変化の時代

情報化社会,グローバリゼーションという言葉で代表される゛変化゛が世界的に起こっています.そして今は変革の時代,変化の時代といわれています.チャールズ・ハンディという人は,「The age of changes」という書物の中で「茹で上がるカエル」という逸話を書いています.鍋の中にカエルを入れて,その鍋をゆっくりゆっくりと暖めていくと,鍋の中のカエルは騒ぎ出すことなく茹で上がってしまうのだそうです.つまり,カエルは緩慢な変化に対応できないということです.人間の中にも劇的な環境の゛変化゛に対して,何も気が付かずに日々を過ごしてしまう人と,ゆっくりとした環境の゛変化゛に対しても敏感に反応できる人とがいます.

日本で数年前にバブル経済の崩壊という現象が起こりました.日本という国の面積は非常に小さく,世界の0.3%しかありません.現在私の住んでいるブラジルの27分の1の広さしかありません.その広さの中で12億人もの人達が生活しています.当然のことですが,土地の価格は高いものとなります.この土地の価格が実質価格を大幅に上回る価格になったのです.しかしながら,当時の日本経済は高度成長期にありましたから,人々は豊になり実質価格以上の価格で不動産を購入しました.

土地の価格というものは,その土地が生み出す価値を見積もって評価されます.実際にその土地が生み出す価値以上の値段がその土地に付けられたのですが,多くの人達はそのことに気が付かずに高い土地を購入したわけです.後に,この実質価格と売買価格との差がバブルといわれました.このバブルが弾けたのです.実質価格を上回っていた分が,一瞬のうちに消えてしまったのです.

不動産の価格はゆっくりゆっくりと値上がりしていきました.不動産を持っている人達は価格の上昇を喜びました.資産が増えているのですから当然喜びます.しかし,一瞬のうちに値上がり分が崩壊したのです.バブル崩壊という劇的な゛変化゛に,多くの日本国民はショックを受けましたが,気が付いたときにはどうすることもできませんでした.

今,アメリカにおいても株価についてバブルの問題が取り沙汰されています.米国の株価はUS$8000位が妥当といわれていますが,株価が急上し,US$9000前後になっているのです.最近はUS$8000台になりましたが,この差がバブルと騒がれているのです.アジア・クライシスの影響を受けて,投資先を米国に求めているのですが,変化がどのようにして,何を理由に起こるのかを敏感に察知することが必要なはずです.

日本のバブル崩壊時にも,ゆっくりした゛変化゛にも注意を払っていた人達はいました.この人達は何の被害も受けていません.茹で上がってしまったカエルもいますが,上手に鍋から逃れたカエルもたくさんいたということです.゛変化゛は様々な形で起こりますが,その変化に十分気を配っておくことが必要です.

 

2.ブラジルのQC事情の変化

私の住んでいるブラジルのQC界でも様々な゛変化゛が起こっています.FCOという財団では日本の品質管理の考え方をブラジルの実状に合わせて,ブラジルの企業に導入する活動をしています.Vicente Falconi Campos博士は,日常管理の導入から始めました.そして,1996年11月に「方針管理」という本を出版しました.その時にファルコニー博士から本の内容を紹介していただきましたが,非常にわかりやすい本でした.方針管理の進め方を日本の武道に真似て,白帯,茶帯,黒帯と3段階に分けて説明してあります.

方針管理は,日常管理が定着した後に導入しなければ効果がありません.ファルコニー博士は,そのことを理解しておられ,日常管理の導入から始められました.日本のいくつかの企業では,このことを理解せずに方針管理を導入し,成果を得られずに終わっています.ファルコニー博士はこのような失敗を繰り返さないように,ブラジルでは日常管理の導入から始めたのだと思います.ファルコニー博士は本当にQCの事を理解されている先生だと再認識しました.

普段の日常生活も同じですが,企業活動において日常管理は非常に重要です.毎日,体重を測定していれば,太ってきたとか痩せてきたということがわかります.毎日体重を測定して変化しないからといって体重測定をやめてしまうと,いつ゛変化゛が起こったのかわかりません.企業の活動も同じで,変化していないことを確認するためにもデータを収集し続けることが必要です.日常管理を実施し,日常のデータが収集されていれば,変化に対して敏感に反応することができます.そして,この日常管理の中から現状打破すべき管理項目を探して大幅な改善をするために,方針管理の実施が不可欠となります.

日本の多くの企業で実施して多大な成果をもたらした方針管理は,方針の展開と方針の管理の2段階に大きく分けられます.部門別管理,機能別管理,製品別管理なども方針管理に関連して実施されることがありますが,これらのことについては,ファルコニー博士の本に,わかりやすく,丁寧に書かれています.大切なことは゛変化゛を敏感に察知することであり,ブラジルにおいては日常管理から方針管理に進展していくという変化を見逃さないことです.当然のことですが,方針管理を実施するからといって日常管理が終わるわけではありません.

 

3.方針管理とQFD

方針管理の中の方針展開に関連する方法としてQFDがあります.QFDという考え方はTQMや田口メソッドと同じように,独立した考え方ですが,TQMを推進する上で非常に重要な考え方です.私達は日本で開発され,多くの企業で成果をもたらしたQFDを十数年に渡って世界各国に紹介してきました.QFDの創始者の一人である赤尾洋二博士がはるばる日本から来伯し,1997年11月に開催されたTQC大会で講演しました.

ブラジルにおいては,Lin Chih Cheng博士を中心とする8名のQFDグループが普及活動を行っています.1996年の6月に米国で開催された第2回国際QFDシンポジウムでは,ブラジルからSadia Concórdia S.A.(2件),Companhia Siderúrgica Belgo Mineira,M. Roscoe S.A.の4件の発表があり,日本のQFD推進者に多大の感銘を与えています.米国において開催された第2回国際QFDシンポジウムには多くの発表申し込みがあり,厳選された人達だけの発表であったと聞いています.

第3回国際QFDシンポジウムは1997年10月にスエーデンで開催され,ブラジルからは4件の発表がありました.そして,第4回国際QFDシンポジウムは1998年8月にオーストラリアノシドニーで開催され,ブラジルからは4件の発表がありました.ブラジルのQFDは着実に広がり成果を上げています.

Lin Chih Cheng博士は家元のQFDに精通し,FCOから゛QFD ―Planejamento da Qualidade―゛というタイトルの本をQFDグループの人達と出版しています.ブラジル国内においても,QFDを導入しようとする企業が増加しつつありますが,QFDの本質を理解せずに亜流のQFDを実施して,成果を得られずに終わっている企業も見かけられ,残念に思っています.

QFDという題名の中にある゛Deployment゛という考え方は,重要な考え方です.方針展開の展開もQFDの展開と日本語では同じ意味で,QFDの考え方が利用されています.QFDの原理には次の3つの原理がありますが,この3つの原理を企業活動の中に適用することがQFD活動です.

 1)細分化と統合化の原理

 2)多元化と可視化の原理

 3)全体化と部分化の原理

このQFDの考え方は,企業活動の様々な場面に応用することができます.製品品質を確実に保証するためにも利用できますし,新製品の開発段階からの品質保証にも役立ちます.サービス業においては,狭義の品質機能展開が有効であり,変化の激しい時代に効率よく仕事を進めるには欠くことのできない方法論といえます.

 

4.日本のQC界の変化

日本におけるQC界にも゛変化゛が起こっています.日本のQCは米国から導入されたものですが,40年の間に日本的経営論の確立と並行して,大きな変貌をとげました.この40年をかけた変化は劇的な変化ではなく,地道な改善による変化です.今でもQCの考え方は日々刻々と変化しています.1950年代の検査中心の考え方から,1960年代後半には工程で品質を保証するようになり,1970年代には設計段階からの品質保証へと進展しています.

最近の日本におけるQC活動はIT(情報技術)を活用した方向へ変化しています.この変化にはコンピュータ界の急激な変革が関連しています.コンピュータ業界では,18ヶ月でスピードは2倍,価格は2分の1というのが定説だそうです.コンピュータの改善スピードは非常に速く,いつコンピュータを購入しても後悔すると言われています.本日コンピュータを購入しても,明日には処理スピードが速く,メモリーが大きくなったコンピュータを同じ価格で購入できる可能性があるからです.

日本における経営活動においても同様にITを活用した方向へ変化しています.ドイツのSAP社のR/3に代表される統合ソフトが注目されています.現在は非常に高価ですが,アッという間に低価格の同様なソフトが市場に出回るはずです.これからのQC活動や経営活動に,ITは欠かせないものとなります.一口にITといっても,その概念は広く,CALSやCIM,などもITの一部と考えられています.

日本におけるITの状況を簡単に紹介します.例えば,サービス業においてはPOSという形でITが用いられています.POSとは販売時点のことで,販売時点の情報が発注業務とリンクしています.販売店では顧客が買い物をした時に,顧客の特徴と買い上げ品をレジスターに入力します.当然,買い上げ品についてはバーコードを用いた入力です.このレジスターへ入力された情報は本部のコンピュータと直結しています.何時,どこで,どんな人が,何を購入したのかという情報から販売店で取り扱う商品を選定し,必要な商品を必要な時に必要な量だけ供給する計画が立てられます.不要な在庫や売れ残る商品は棚から消えていきます.そして,トラックは^搬機器でもありますが,倉庫の役目も果たしています.情報はリアルタイムでなければ意味がなく,一括処理ではなくリアルタイム処理が原則です.

製造業でも同様のシステムが考えられます.工場への受け入れの際にバーコードを使った情報と共に資材や購買品が納入されます.これらの材料は何時,どこに保管されているかという情報がコンピュータで管理されます.倉庫からの払い出し情報もコンピュータによって管理されます.工場内のコンベヤーにセットされているセンサーによって,何が,何時,どのように移動しているかがコンピュータで管理されているのです.生産に関連する全ての情報がリンクし,一元的に管理されているのです.そして,データの処理はリアルタイムに行われています.部署ごとに蓄積されているデータ・ベースはデータ・ベースと呼ぶことができません.全社の情報がリンクし,リアルタイムに更新されて,始めてデータ・ベースとなるのです.これがITの考え方です.

 

5.ITとRdb−QFD

このITを活用したQFDがRdb−QFDです.Rdb−QFDとはリアルタイム・データ・ベース−QFDのことです.設計者が設計図面を書いてから,設計審査を実施して図面の善し悪しを判断し,試作を行って物を作る時代ではなくなっています.設計をした時点でリアルタイムに設計の善し悪しが判断できなければ,変化の激しい時代に生き残ることはできません.

例えば,試作をするということは,実生産に直ぐに移行できないということであり,試作をしなくても済むのであれば,開発期間を大幅に低減できます.なぜ試作が必要かというと設計に自信がないからです.設計に自信があれば試作などしなくて済むはずです.設計審査も同様です.人間の記憶に頼った審査では限界があります.設計審査で気が付けばよいのですが,時々見逃してしまいます.そこで,一度の審査では不安になって審査の回数を増やします.それでも漏れることがあるので不安になり,またまた審査の回数を増やすことになります.

設計審査をせずに本生産に入ることができれば,これも開発期間の短縮に繋がります.設計時点で確実に生産できる設計がなされるようにすることが必要です.このためには確実な情報を設計者が入手する必要があります.不確実な情報からは不確実な設計しかできません.最新の確実な情報を得るためには,現時点の情報をリアルタイムに入手することができるシステムを構築しておくことが必要です.

このシステムを構築するには時間がかかりますが,システム構築を効率よく実施するためにRdb−QFDの考え方が役立ちます.Rdb−QFDは既存のQFDを基礎に成立しますから,ベーシックなQFDを実施することも必要になることもあります.とはいえ,茹で上がってしまうカエルにならないように,時代の変化に対応するように管理の在り方を考えて欲しいものです.

 

【過去のトピック一覧】

1998年6月のトピック:暗黙知と形式知

1998年7月のトピック:Total Quality