【9月のトピック:やさしいQFDの進め方】

98年9月のトピックは,「やさしいQFDの進め方」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.

 

1.QFDはやさしいか

来る9月25日に日科技連で第7回目のQFDシンポジウムが開催されます.そのシンポジウムでは,「QFDのやさしい進め方」を討議することになっています.また,11月の品質月間に発売される品質月間テキストに「やさしいQFDの進め方」というタイトルで,金子憲治氏,磯部孝征氏,雪本直樹氏,山本進氏らが執筆したテキストがあります.

そこで,今月のトピックでは,このテーマを取り上げ,同シンポジウムの基調講演の原稿のエッセンスを紹介することにしました.QFDの進め方については既にいくつかの書物も出版されていますが,今回のシンポジウムでは「やさしい」という修飾語がくっついている進め方を討議しようということです.「やさしい(易しい)」という言葉に対する言葉として「難しい」という言葉も考えられますし,「やさしい(優しい)」という言葉に対する言葉として,「厳しい」という言葉も考えられます.

しかし,「QFDの難しい進め方」も「QFDの厳しい進め方」も存在しないと思います.そして,ここでいう「やさしい」というのは,手軽に,手間をかけずに,簡単に,短時間で,というような意味ではないかと思います.

QFDを実施する目的は,新製品の開発や品質の保証にありますが,品質保証を目的とした場合,網羅的に検討して抜け落ちをなくすのであれば,このための品質表の作成には時間がかかりますし,その表は膨大なものとなります.

とはいうものの,今回のテーマはやさしい進め方ですから,考え方を変えれば簡単に実施することも可能だと思います.そこで,QFDのやさしい進め方について,ポイントを9つに絞って解説することにします.

 

2.QFDのやさしい進め方―9つのポイント―

QFDのやさしい進め方のポイントは,進め方の順に9つあると思います.重要なポイントの順に記述すると順序が変わりますが,QFDを進めて行く手順に沿って重要なポイントを説明すると次のようになります.

ポイント@:目的を明確にする.

ポイントA:必要な表は何かを考えてから始める.

ポイントB:展開表と一覧表を使い分ける.

ポイントC:使える品質表の作成を心掛ける.

ポイントD:始めから完璧な品質表を作成することを考えない.

ポイントE:望遠鏡と虫眼鏡を使い分ける.

ポイントF:業務機能との関係を明確にする.

ポイントG:過去の資料を活用する.

ポイントH:常に全員参加で進める.

品質表作成についての技術的なポイントと,QFDを進める上での考え方としてのポイントが混在していますが,QFD導入決定以降の手順に沿って考えると9つのポイントがあると思います.

ポイントは1つではないか,というのであれば9つのポイントの中で6番目が最も重要なポイントだと思いますが,各ポイントについて順を追って説明していきます.

 

【ポイント@:目的を明確にする】

まず始めに,何のために品質機能展開を実施するのかを明確にしてから始めということが大切です.QFDを製品品質の保証のために実施する,新製品を開発するために実施する,QS9000などの要求によって実施するなど,さまざまな目的が考えられますが,実施目的を明確にすることが大切です.

そして,目的にあった方法論や考え方で進めることが大切で,QFDが最適な方法論でないのであれば,QFDではやらないと意思決定することも大切だと思います.目的を明確にすることに関連して,効果が目に見えるようにすることも大切です.目標と達成時期を明確にしてから実施することです.

 

【ポイントA:必要な表は何かを考えてから始める】

目的が明確になったら,目的達成に必要な表を考えることが必要です.QFDを実施する際に作成し活用することが必要と考えられている表として,要求品質展開表,品質特性展開表,品質表(要求品質展開表と品質特性展開表との二元表を特に品質表ということがあります),機能展開表,機構展開表,業務機能展開表,ユニット・部品展開表,素材展開表,FT表,企画品質設定表,設計品質設定表などがあります.

要求品質展開表が本当に目標達成に必要なのか,品質特性展開表が本当に目標達成に適切な表なのか,企画品質設定表は本当に意味ある表なのかなど,目的を達成するのに必要な表は何であるのかを考えてから,必要な表を作成することです.

QFDでは要求品質展開表を作成し,次に品質特性展開表を作成し,これらの二元表を作成して対応関係を記入し,市場調査をして企画品質設定表を作成するという一般的な手順を必ず進めなければいけないということはありません.

 

【ポイントB:展開表と一覧表を使い分ける】

作成すべき表は展開表なのか,一覧表で良いのかなどを検討し,展開表と一覧表を使い分けることも大切です.展開表を作成する場合には,グルーピングという作業が必要となりますが,一覧表であればグルーピングという作業は必要ではありません.展開表を作成するのか,一覧表で済ませるのかで,作業効率は大変違ってきます.

QFDだからといって常に展開表にする必要はありません.要求品質展開表や品質特性展開表は展開表ですから,展開して表にする必要がありますが,全ての表を展開表にする必要はありません.要求品質や品質特性についても,展開表にすべきかどうかを考えるべきです.

 

【ポイントC:使える品質表の作成を心掛ける】

一目でみることができ,使える品質表を作成するように心掛けることが大切です.一言で言えば「膨大な品質表にしない」ということです.大きな品質表では持ち運ぶのが大変です.全体を理解するのにも時間がかかります.作成に時間がかかり,結果を利用する際にも時間がかかるのでは作成する意味がありません.ただし他の人を短時間で説得するには,膨大な品質表は大きな効果があります.

使える品質表を作成するためには大きな展開表から切り出した品質表を作成することを概念として認識することが必要です.例えば,詳細に要求品質展開表を作成すると3次項目の数が150項目を超えることもあります.品質特性の項目数も同様ですが,両者を3次項目同士で作成すると膨大な品質表となります.この大きな品質表を頭の中で作成しておいて,重点を絞った見やすい品質表を実際に作成するのです.

 

【ポイントD:始めから完璧な品質表を作成することを考えない】

品質表などを作成していくと,メンバーの中に完璧を求める人がいる場合があります.それはそれで結構なことですが,完璧を求め続けて何も進まないというようなことがあります.要求品質表を作成した時点で,「抜け落ちた要求品質がありそうで不安です」とか,要求品質と品質特性の対応関係を付けた時点で,「対応関係があっているか不安です」とか,完璧を求めて活動が進まないことがあります.

始めから完璧な品質表を作成することを考えると活動は進みません.いい加減な表を作成することを薦めているのでは決してありませんが,始めから完璧を求めると活動が進まないのです.

要求品質と品質特性との対応関係を付ける作業でも,必ずしも◎○△の3段階で記入する必要はありません.関係があるかないかだけの対応付けでもよいと思います.展開表を作成する時にも,どちらの言葉が上位項目かなどを真剣に考えなくてもよいと思います.適当に考えればよいということではありませんが,深刻に悩むほど考える必要はないということです.

 

【ポイントE:望遠鏡と虫眼鏡を使い分ける】

全体を眺めるための望遠鏡と,一部分を細部にわたって検討するための虫眼鏡を使い分けることが大切です.実験計画法において直交表を使って大網をはる実験と,特定の条件を細かく調べる実験を使い分けるように,荒い網の品質表と細かい網の品質表を使い分けることです.

ただし網の目を荒くして作成すれば,短時間に簡単に作ることができますが,漏れは避けられません.網の目を細かく作成するには時間がかかりますが,漏れが発生する可能性が少なくなります.大網と細かい網を使い分けることが必要です.

また,品質面,技術面,コスト面,信頼性面などのある側面を虫眼鏡で観ている活動と,品質面とコスト面のバランスを望遠鏡で観ている活動とがあります.品質面を一生懸命解析している時に,コストのことも,生産性のことも一緒に考えると活動が進みません.まず品質の面を十分に吟味し,そしてコストを考えるのか,まずコストの面を十分に吟味してから品質面を考えるのかなど,部分を観て全体を眺め,そしてさらに部分を見直すという進め方で活動することがポイントです.

 

【ポイントF:業務機能との関係を明確にする】

QFDを実施する際に作成される品質表などの各種の展開表は,作成することが目的ではなく,目的達成のために使用されるべきです.各種の展開表を作成する過程でも,「社内用語が統一される」「コンセンサスが得られる」などのメリットがありますが,表を作成することがQFDではありワせん.

品質展開(QD)の実施によって,対象製品もしくはサービスについての品質構成要素が明らかになれば,次に成すべきことは目標達成のための活動を具体的に進めることです.この活動の具体化とは業務機能を具体化することで,狭義の品質機能展開を実施することによって具体化された業務を確認することができます.

業務機能を展開するということは,要求品質や品質特性を展開するように,抽象的なレベルの業務機能を具体的なレベルの業務機能へと抽象のハシゴを降りていくことと同じことです.例えば,「情報を処理する」という抽象的な表現の業務を「新聞記事をクリッピングする」というような具体的な表現の業務に展開することです.

このためには「期待・ニーズ分解シート」を用いて,機能と品質との関係を明らかにしながら,業務機能を明確にするとよいと思います.対象とする機能を人が行えば業務機能になりますし,機械などに体化すれば有形財の機能ということになります.品質展開の結果と業務機能との関係を明らかにしておけば,即実行に繋げることができます.

 

【ポイントG:過去の資料を活用する】

市場の要求を把握したり,品質特性を抽出したり,企画品質を設定したりする時に,これらのこと全てを始めから実施したのではとても大変です.それは,普段の情報が整理されていないからということもできると思います.通常収集すべき情報が収集され,整理されていれば大変ではないと思いますが,情報が収集整理されていないから大変なのです.

製品に添付されているユーザー・アンケートの情報,試作品についての分析データ,過去の製品に関する性能調査などの情報,他社製品を購入・分析して得られた情報など,過去の情報が収集・整理・蓄積されていれば品質表の作成はさほど時間がかかるとは思えません.

さらに,同種の製品について過去に作成した品質表があれば,それを活用することもQFDをやさくし進めるポイントになります.これは当たり前のことかもしれませんが,品質表は作成することが目的ではなく活用することを目的に作成されます.この作成された品質表を活用するのです.

 

【ポイントH:常に全員参加で進める】

QFDの活動は,ひとりで進めるのではなく,数人のグループで進められますが,この活動を常に全員参加で進めるということです.当然,活動が進むに従ってメンバーが変わっていくのですが,各ステージでのメンバーは必ず各会合に参加して活動を進めることが大切です.

メンバーが入れ替わり立ち代りでは活動が進みません.会合をすることが目的ではなく,目的を達成するためのQFD活動ですから常に全員参加で進めることが大切です.

 

3.まとめ

QFDの研究・普及を始めた当初,QFDというものの体系を明らかにすることに力を注ぎました.入門コースなどでその体系の話をしますと,進め方の手順を明確にしてほしいという要望が多くありました.そこで,一つの手順をマニュアルの形でまとめたのですが,一つの手順を提示したことによって,その進め方通りに進めることがQFDであるという誤解が生じてしまったと思います.

そこで,原点に戻ってQFDの基本原理のようなものを考えました.それは細分化・統合化の原理,多元化・可視化の原理,全体化・部分化の原理という3つの原理ですが,この原理を活用することがQFDではないのかと考えるようになりました.

QFDは難しいものではありません.難しいのは顧客の心変わりと地道な努力ではないかと思います.地道な努力をして心変わりする顧客の真意を把握するために,QFDの考え方を活用することは最適な方法と思います.

 

【過去のトピック一覧】

1998年6月のトピック:暗黙知と形式知

1998年7月のトピック:Total Quality

1998年8月のトピック:変化の時代