【10月のトピック:Market-in と Product-out】

98年10月のトピックは,「Market-in と Product-out」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.

 

1.ソニーの法則

第4回QFD国際シンポジウムが今年の8月3,4,5日の3日間,オーストラリアのシドニーで開催された.ブラジルに在住していた私は,サンパウロからロサンゼルス経由でシンポジウムに参加した.シンポジウム終了後,オーストラリアからブラジルまでの直行便がないため,アメリカに一時入国する必要があった.3時間位の乗り継ぎ時間があったため,ロス空港の売店を歩きまわっていた時,日本の週刊誌が目に止まった.いくつかの週刊誌を手に取り,目次を見ていたら「この不況地獄に一人勝ち!5分で読める『ソニーの法則』18ヶ条の要点」というタイトルにひかれ,日本円で300円のその週刊誌を9ドル80セントで購入した.週刊ポスト8月14日号である.

その週刊誌に書かれていた「ソニーの法則18ヶ条」とは次のようであった.

第1条:客の欲しがっているものではなく,客のためになるものをつくれ.

第2条:客の目線ではなく,自分の目線でモノをつくれ.

第3条:サイズやコストは可能性で決めるな.必要性,必然性で決めろ.

第4条:市場は成熟しているかもしれないが,商品は成熟などしていない.

第5条:できない理由はできることの証拠だ.できない理由を解決すればよい.

第6条:よいものを安くより,新しいものを早く.

第7条:商品の弱点を解決すると新しい市場が生まれ,利点を改良するといまある市場が広がる.

第8条:絞った知恵の量だけ,付加価値が得られる.

第9条:企画の知恵に勝るコストダウンはない.

第10条:後発での失敗は,再起不能と思え.

第11条:ものが売れないのは,高いか悪いのかのどちらかだ.

第12条:新しい種(商品)は,育つ畑に蒔け.

第13条:他社の動きを気にし始めるのは,負けの始まりだ.

第14条:可能と困難は可能のうち.

第15条:無謀はいけないが多少の無理はさせろ.無理を通せば,発想が変わる.

第16条:新しい技術は,必ず次の技術によって置き換わる宿命を持っている.それをまた,自分の手でやってこそ技術屋冥利に尽きる.自分がやらなければ,他社がやるだけのこと.商品のコストもまったく同じ.

第17条:市場は調査するものではなく,創造するものだ.世界初の商品を出すのに,調査のしようがないし,調査してもあてにならない.

第18条:不幸にして,意気地のない上司についたときは,新しいアイデアは上司に黙って,まず,ものをつくれ.

この18ヶ条についてのコメントは後にして,週刊誌の内容からトピックを書いたのでは学者としては恥ずかしいので,帰国後その記事を元に原点を確認することにした.

 

すると

 

2.二つあった「ソニーの法則」

週刊誌に書かれてあった小学館から発行されている片山修氏の「ソニーの法則」という本を探して買い求めた.小学館文庫で619円の本である.その本によるとソニーの法則は14であった.週刊誌では18ヶ条,それが文庫本によると14なのである.その14の法則とは次のようであった.

ソニーの法則1:「これがしたい」と手をあげろ(末富達人)

ソニーの法則2:熱しやすく,冷めるな(大曽根幸三)

ソニーの法則3:技術の素性を見ろ(森尾稔)

ソニーの法則4:仕事は組織ではなく,人で動かせ(風間重之)

ソニーの法則5:人真似するな,妥協するな,あきらめるな(木原信敏)

ソニーの法則6:プロジェクトリーダーは私心をなくせ(吉田進)

ソニーの法則7:小型化,ポータブル化で差別化を図れ(鹿井信雄)

ソニーの法則8:叩けよ,さらば開かれん!(中川智子)

ソニーの法則9:自信があれば,ドンドン突っ込んでいけ(小松万豊)

ソニーの法則10:セールスマンのいらない商品をつくれ(卯木肇)

ソニーの法則11:感嘆,賞賛,敬服される会社になれ(大賀典雄)

ソニーの法則12:プロ同士の信頼を貫け(樋口晃)

ソニーの法則13:混沌を否定せず(橋本綱夫)

ソニーの法則14:マイクロソフトに憧れることなかれ(出井伸之)

何故,同じ小学館から出版されている週刊誌と文庫本なのに,内容が違うのか.同じ片山修氏が登場しているのに違う法則が存在するのかという疑問を抱きながら文庫本を読み進めた.

 

すると

 

3.ソニーの法則は法則か

文庫本における14のソニーの法則は,片山修氏がソニーを取材し,それぞれの人々の意見をまとめた結果だった.新MDを開発中の末富達人氏,ウォークマンの開発に携わった大曽根幸三氏,パスポートサイズの8ミリビデオカメラの生みの親である森尾稔氏というように,ソニーにいる人達に対する取材の結果をまとめた法則だった.

そして,週刊ポストに掲載されていた18ヶ条は,ウォークマンの開発に携わった大曽根部隊の開発18ヶ条だった.私が大学院で研究していた時に,木暮正夫先生から「孫引き」はいけないと注意されました.「孫引き」とは文献を引用する際に,人が引用したものをさらに引用することですが,週刊誌の記事からこのトピックを書いていたら,大きな過ちを犯すところでした.

さて,ソニーの法則を読みながら,新製品が開発され世の中に受け入れられるまでの苦労が伝わってきました.一方で,科学的管理を研究している学者としての私にとっては,納得はするが賛同はできないという法則もありました.たとえば,ウォークマンは盛田昭夫氏が米国を訪れた時に,大きなアメリカ人が大きなラジカセを担いで歩いている姿を見て思い付いたという話が伝わっています.

しかし,文庫本ソニーの法則の中では,井深大氏が出張の際に再生だけでステレオが聞けるものを作って欲しいということから作られたという話になっています.結果論であり,どちらでもいいといえばいいのですが,天才的な個人の発案による開発を是とするのか,凡人の集合であってもある手順を踏むことによって画期的な開発ができると考えるのかということに大きく関係すると思うのです.

大曽根部隊の開発18条をみると,開発者の強い意志が大切であるということが痛切に感じられます.第2条の「客の目線ではなく,自分の目線でモノを作れ」は,そのことを端的に物語っていると思います.そして,「サイズやコストは可能性で決めるな.必要性,必然性で決めろ」とか「市場は調査するものではなく,創造するものだ」など,賛同できる意見が法則として取り上げられています.

開発に興味のある方は是非同書を買求められて読まれることをお勧めしますが,私は記述されているきまりを守った結果がどのようになるのかが明らかだとは思えません.法則とは「守らなければならないきまり」ですが,18ヶ条なり14法則を守ると,ヒットする商品が開発できるのか,ヒットするかどうかは別として単に開発ができるのかなどが明らかでないと思います.

 

とはいえ,商品開発に興味がある人にはお勧めの一冊です.

 

4.Market-in と Product-out

さて,本題のMarket-in と Product-outですが,この2つの言葉は対立する言葉として使われます.これらの言葉は,マーケティングやオペレーションズ・リサーチと同様に,日本語では表現しにくい言葉です.英語ではないとも言われており,ニュアンスから意味を想像するしかないのですが,マーケットインとは市場の立場で考えるというか,顧客思考で考えるとかいうことです.一方のプロダクトアウトとは生産者側が主導権を持って考えるというか,提供者側の勝手で製品を作るとかいう考え方です.

「顧客第一主義で」というのであれば,マーケットインということになると思いますが,顧客の言うことを全て聞くという意味ではないと思います.真のマーケットインとは顧客の要求なり要望を理解した上で企画や開発・設計を考えることだと思います.企画や開発・設計というのは基本的にプロダクトアウトだと思います.それは最終的に顧客に提供される商品を生産して販売するかについての決定権は提供者側にあるからです.

ここで,ソニーの法則がマーケットインであるのかプロダクトアウトであるのかという観点から考察してみると,プロダクトアウト的な側面で開発しているように思われます.しかしながら,開発者の視点が製品を購入する顧客の視点を持っているように思います.確かにウォークマンは井深氏の要求によって現実化されていったのだと思いますが,その商品を市場が受け入れるであろうという顧客の視点を持っている盛田氏の存在によって日の目を見たのではないでしょうか.

提供企業側が思い込みで製品化し,市場に投入され消えていった商品も実際に存在します.VTRで言えばソニーさんのベータは市場から消えた製品です.法則にあるように「市場は調査するものではなく,創造するものだ」と思いますが,創造できなければ,もしくは創造できたとしても一番に市場に投入されたものより後発の方が優れていれば,市場の創造も徒労に終わってしまいます.

この意味から考えると,ナンバー・ツー作戦というか,二番煎じ製品というか,新製品が市場に投入された後を追って,市場に参入するという戦略の方がリスクは少なくなります.市場の動向を見極めてから市場に参加するという戦略は松下さんが有名です.まねしたさんといわれるほど追従製品を安く市場に投入していきます.しかし,松下さんの経営はダム経営といわれるように蓄積があるから可能なのです.単にまねをして追従しているのではなく,それまでに蓄積した技術があるからこそ成し遂げられることなのです.

 

だとすると

 

5.価値創造の時代

市場を創造するという考え方も大切ですが,創造した市場に投入される商品に価値があることが必要だと思います.価値ある商品であるから市場が創造されると考えることもできますが,市場を創造するためには投入する商品に価値があることが必要なのです.顧客は犠牲を払って商品を購入するわけですが,支払う犠牲と同等,もしくは同等以上の価値があると判断すれば,犠牲を惜しまず支払います.そこに市場が創造されるのだと思います.

価値分配に対して理想的な状況は,顧客が対象とする商品から価格(顧客にとつての犠牲)に見合った価値・機能・便益などを享受でき,かつ,提供者側も適正な利潤を得られることだと思います.一方的に顧客が利益を得たり,圧倒的に提供者側が多くの利益を得たりというように偏りが生ずると問題なのです.提供する側も,購入する側も適正な利益が得られることが大切だと思います.

難しいのは,「適性」ということです.膨大な費用をかけて開発したのだから,受益者はその費用を負担すべきであるという構図は成立しなくなっています.顧客の価値判断基準が幅広くなっているのも事実だと思いますが,顧客はその人にとって価値あると判断したものは手に入れる努力をします.これからの時代は価値を創造し,価値を提供することが必要だと思います.

価値は提供財の機能と機能の達成レベルでベーシックな部分が構成され,その提供財を保有する個人の特殊環境によって付加価値がプラスされると考えられますが,提供財を提供する側では機能と機能の達成レベルを考えることによって価値創造ができると思います.

こんなことを考えさせられた「ソニーの法則」でした.

 

【過去のトピック一覧】

1998年6月のトピック:暗黙知と形式知

1998年7月のトピック:Total Quality

1998年8月のトピック:変化の時代

1998年9月のトピック:やさしいQFDの進め方