【11月のトピック:新しいTQM】

98年11月のトピックは,「新しいTQM」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.

 

1.総合「質」経営

1998年6月30日に日科技連出版社から「TQM−21世紀の総合「質」経営」という本がTQM委員会編著で出版されました.そして,この本をテキストにして「今こそ,新しいTQMで企業刷新・改革」と題してTQMフォーラムが10月26日に日本科学技術連盟・東高円寺ビルで開催されました.パンフレットには「新しいTQM」という言葉が6箇所に使われており,「新しい」ということが強調されていました.一方で「プラットホームとしてのTQM」とか「TQCを継承・発展させたTQM」などという記述もありました.

この新しいTQMを「総合「質」経営」としたことにはTQM委員会の苦労が感じられます.QC(Quality Control)というのはアメリカから日本に導入されたのですが,このQCを日本語に翻訳する時に「品質管理」としました.英語の「Quality」を「品質」と翻訳し,「Control」を「管理」と翻訳したのです.しかし,英語の「Quality」という言葉は単に「質」と訳した方が適訳と考えられます.この「Quality」を「品質」と訳すことによって「品物の質」であると誤解された経緯があるのです.そこで,TQM(Total Quality Management)を「総合「質」経営」としたのではないかと思います.

しかしここで,新しいTQMは21世紀に求められる全く「新しいTQM」なのか「TQCを継承するTQM」なのかについて十分考える必要があるように思います.つまり,「QCからTQCへ,そしてTQMへ」というTQMと「新しいTQM」というTQMは違うのではないかと思うのです.日本のTQCが日本の経済成長に貢献したということに関して異論をはさむ人はいないと思いますが,TQC以外にも多くの管理技術が考え出され,これら全ての管理技術や生産技術の相互作用によって日本製品のクオリティーが確保されたと思うのです.

前述の「今こそ,新しいTQMで企業刷新・改革」と題したTQMフォーラムでの説明では,「新しいTQM」は従来のTQCを中核に置いているような印象を受けました.私は「新しいTQM」が必ずしも従来のTQCを継承する必要はないと思います.従来のTQCを継承せずに,新たな活動を実施することは大変なことかも知れませんが,企業における活動は時代の背景と共に変遷していく必要があると考えられます.QC活動からTQC活動,そしてTPM活動やISO9000シリーズ認証のための活動と,さまざまな活動を実施しているようにも取られがちですが,当該企業での活動の目的を見失わないかぎりどの活動も関連があることは理解できるはずです.

そして,いずれかの活動の一つを十分に理解して実施していれば,他の活動は多少の活動を追加するだけで済むはずです.例えば,TQC活動を十分に理解して実施していれば,ISO9000シリーズ認証は容易なはずです.TQCとISOは全く別なものではなく,TQCとTPMも切り離して考えられるものではありません.TQCで成果が得られないからTPMを実施したり,TQCで成果が得られないからISO認証の活動を実施するわけではないのです.どの活動でも本質を理解して実施すれば関連活動の実施には多少の活動追加で実現できるはずなのです.

 

2.保証対象を何にするか

日本のTQCの貢献は確かに誰もが認めるところだと思いますが,TQC以外にも多くの管理技術があり,これらの管理技術の貢献を忘れてはならないと思います.言葉のレベルはばらばらですが,TQC以外にJIT,KJ法,KAIZEN,田口メソッド,QFDなどさまざまな考え方が日本から海外に発信されていますし,日本国内の多くの企業で導入・実施されています.そして,これらの対象は品質だけではなく,生産性,在庫、コストなど経営全般に関係する人,モノ,金,システムを対象にしています.

言葉を変えれば,経営活動によって保証すべき対象は品質だけでなく,納期やコストなどいろいろなモノが考えられるのです.企業が顧客に提供する提供財の「品質」を保証することは当然として,「納期」を保証することも当然のことなのです.納期を保証するためには生産に必要なものを必要な時に必要な量を確保する必要があり,JITの根本的な考え方になっています.顧客に何を保証するかによって,その活動もさまざま考えられるのです.

TQCでは保証の対象は品質でしたが,品質といっても「製造品質」「設計品質」「企画品質」など,品質という言葉の前に膠着した言葉によって具体化されます.そして,品質保証といっても製造品質を保証するのか,設計品質を保証するのか,企画品質を保証するのかを考える必要があります.同様のことですが,「品質保証体系図」とか「品質保証活動一覧表」などという言葉もありますが,これらの体系や活動が企画品質,設計品質,製造品質など全ての品質を保証する体系や活動を示しているかというと疑問が残ります.従来はどちらかというと「製造品質」のみに重点が絞られていた観があります.

また,このことについて保証対象を変えて拡張すると,「納期保証体系図」「納期保証活動一覧表」が考えられます.顧客に納期を保証するための体系を示したり,顧客に納期を保証するための活動一覧を示したりすることが必要かもしれません.このためには「納期保証体系図」などが必要になります.企業が顧客に保証すべき対象は,企業によって一律ではなく企業の置かれた立場や業種によって異なると考えられます.安全性を保証することが必要な企業もあれば,信頼性を保証することが必要な企業もあると思います.すると提供財の「安全性保証体系図」が必要かも知れませんし,「信頼性保証体系図」が必要になるかもしれません.

顧客に提供する提供財が有形財ではなく無形財の場合には,提供する無形財を具体化して保証対象を考える必要があります.例えば,専門技術を提供する企業では技術の品質というように考えて品質を保証するというよりも,技術を保証すると考えた方が分かりやすくなると思います.すると「技術保証体系図」「知識保証体系図」などによって顧客に提供する技術を保証するための体系を示したり,顧客に提供する知識を保証するための体系を示したりすることになります.

 

3.これからの時代に保証すべき対象

従来のTQCでは保証の対象は品質が中心でしたが,21世紀に向けて今後保証すべき対象としては品質のみでは不十分と考えられます.品質管理が「品質の管理」か「品質による管理」かなどの議論は別にして,「品質を管理する」と機能表現をした時,この機能表現を対象である「品質」と動詞の部分である「管理する」に分けて考えることができます.そして,動詞の部分を固定して対象の部分を変えてみると「生産管理」「工程管理」「原価管理」「運搬管理」「在庫管理」などの管理科目名称が考えられます.この管理の前にくっつけられた言葉の全てが保証対象になるかどうかは別として,工程を保証するという工程保証は重要なことであり,この「工程」は保証対象として重要な対象です.

有形財の場合,製造工程で製造された製品の品質を保証するよりも,その製品を産み出す工程が保証できれば結果としての製品の品質を保証することになり,その方が企業にとっても有利になるのです.ですから,品質保証が製品品質を保証することだけであるのであれば,品質保証体系図よりも製品を産み出す工程を保証する体系である工程保証体系図を作成して検討する方が意味あることと考えられます.

さらに,21世紀をむかえるに当たって,今後企業が保証すべき対象としては価値,感動,知識,技術などが考えられます.上述のTQMフォーラムにおいてコニカの米山高範氏の講演がありましたが,その講演の中で「感動創造」という言葉が提示されました.企業が「感動創造」という言葉を提示するのであれば,当然のことながら顧客に感動を保証する必要があります.日産自動車では「価値創造企業」という言葉を提示していますが,価値を創造する企業であるというのであれば,顧客に対して価値を保証する必要があります.

企業が顧客に対して何を保証するかについては,企業によって異なると考えられますが,企業が顧客に提示していることを保証する必要があります.企業が顧客に提示していることというのは,企業が顧客に提示するカタログに示されている場合もあれば,企業の理念や社是として示されている場合もあります.いずれにしても提示していることを顧客に保証しなければなりません.

このトピックの6月に取り上げた野中郁次郎氏は「知識創造企業」という本を東洋経済新報社から出版していますが,6月のトピックで書いたように知識創造は価値ある知識の創造であるべきだと考えます.企業としては価値を創造し,価値を顧客に提供し,提供した価値を保証することが必要になります.そして,価値を保証するためには,提供財の価値を確保し,価値を確認し,価値を証明することが必要になると思います.

 

4.新しいTQMに求められる能力

「TQM−21世紀の総合「質」経営」という本の中では,賞賛される競争力である組織能力は技術力,対応力,活力の3つの「力」に整理できるとしています.TQM宣言の時には組織力としてコア技術,スピード,活力の3つとしていましたが,組織力が組織能力となり,コア技術が技術力,スピードが対応力と変わり,活力は活力のままで3つの「力」に整理できるとしています.

日本には天然資源があるわけではなく,日本企業が現在の地位を確保できたのは「技術」と考えられます.石原慎太郎氏とソニーの盛田昭夫氏とが著わした「ノーと言える日本」の中でも「技術」が日本の切り札になると書いているように,日本の技術力は今後もキーになることは間違いないと思います.その意味でもTQMの実施によって,さらに技術力を向上させることが必要と思います.そして,企業が保有している技術を明らかにするためには,QFDの技術展開を実施すればよく,技術が明らかになれば技術力のレベルを測定することも可能です.

また,今後企業が「質の高い迅速な対応を求められる」ことは間違いのないことだと思います.この意味では経営指標として「時間」は重要な尺度であり,開発期間,設計時間,応答時間などの時間指標を短縮する活動が必要となると思います.この指標のレベルを向上するためには技術力を高めると共に対応力,もしくは即応力を高める必要があります.対応力を高めるためには技術力が必要で,技術力を高めれば対応力が高まるという関係にあるような気もしますが,スパイラル・アップする活動ですから相互に作用していくものと思われます.

そして,3番目の活力ですが,組織の「エネルギー」とも位置付けています.技術力と対応力があっても活力がなければならないという考え方もあると思いますが,企業に必要なエネルギーとして技術力と対応力までは納得できますが,技術力と対応力に並ぶエネルギーが活力とは考えにくいと思います.また,活力を測るということは組織力そのものを測定することと同じではないかと思います.技術力と対応力があれば自ずと活力は産まれるとも考えられます.

私はTQM活動によって得られる成果として「創造力」の向上が求められると思います.それは,企業の方は何かについて説明すると「何か良い事例はありますか」と質問されますが,このような質問をして事例を求めるのは創造力が不足しているからと考えられるからです.価値創造や感動創造,知識創造など,創造がキーになる時代に向けて創造力は必要です.企業のトップの方が方針を出される時,事例を求めて事例から方針を出すというようなことはないと思います.戦略経営が求められている時代に,「何か良い戦略の事例はないか」などと戦略の事例を求めることはないと思います.

新たな商品を開発するにしても,新たな戦略を策定するにしても,企業の方向を示す方針を出すにしても,事例が必要なのではなく,創造力が必要なのではないでしょうか.創造力を培い,創造されたものを実現する技術力を向上することによって,迅速な対応が可能となるのではないでしょうか.何かの話を聞いて,自分の中に租借し,新たな考え方や商品を創造することが必要で,真似ることを求めるべきではないと思います.この意味でも創造力が必要になると思います.

 

5.新しいTQM

以上のことから,TQM自体にも創造性が望まれていると思います.QCなりTQCによって日本製品の品質が確保され,世界に証明されたことは事実だと思います.しかし,QCなりTQCが果たした役目は終ったわけではないと思いますが,既に導入・実施した企業では定着した状況にあるのではないでしょうか.当然のことながら,現在でも従来のTQCをこれから導入したり,推進したりしている企業も存在すると思いますが,それらの企業では従来通りの進め方で品質向上活動を進めれば良いと思います.

一方で,TQCを導入し,活動も定着し,デ賞も受賞し,TPM賞も受賞し,N賞に挑戦しようかと考えているレベルの企業も増えていると思います.また,デ賞は受賞していなくても,ある程度の品質が確保され,いまさらTQCを導入しなくても,と考えている企業もあると思います.しかし,いずれの企業であっても企業革新のための何かを求めているのではないかと思います.

現在の世界的な経済悪化を取り戻すには,日本の経済回復が必須であるという見方が大勢を占めているようです.日本経済を回復させるための新しいTQMを考え,この新しいTQMが世界的な経済向上を持続させる原動力になる必要があると思います.このような状況を鑑みて新しいTQMを模索すると,従来の日本的TQCを継承した活動ではなく,創造的な新しいTQMの創出が必要なのではないでしょうか.

この新しいTQM活動の実施によって,新たな感動が創造され,新たな価値が創造され,新たな知識が創造される必要があると思います.そして,従来の日本的TQCの考え方は継承しても,体系を継承する必要はないと思います.従来のTQCの中核と考えられる品質保証についても,品質の保証に止まらず価値の保証や感動の保証など,保証する対象を広げた体系が望まれると思います.

 

【過去のトピック一覧】

1998年6月のトピック:暗黙知と形式知

1998年7月のトピック:Total Quality

1998年8月のトピック:変化の時代

1998年9月のトピック:やさしいQFDの進め方

1998年10月のトピック:Market-in と Product-out