【1月のトピック:QFDと開発管理工学】
99年1月のトピックは,「QFDと開発管理工学」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なく申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.
1.QFDと開発管理工学
新製品を短期間で開発する必要があるということは,あらゆる業種でいわれていることです.新製品開発はマーケティングの領域とされてきましたが,日本においては企画,設計を含めて生産準備などをうまく進めてきたといわれています.この中心的なツールとしてQFDが位置付けられると思いますが,赤尾洋二教授は開発自体を管理する工学としての開発管理工学(Development ManagementあるいはManagerial Development Engineering)が必要であると提案しています.
これは,従来の工学(Engineering)が出来上がった製品の技術や量産時の管理工学が主体であり,設計開始から製品立ち上げまでの工学がなかったことが大きな盲点であるということからの指摘です.日本科学技術連盟の品質機能展開研究会の1分科会では,熊谷組の田中孝司氏を主査として,この研究を進めています.
本報告では,開発管理工学(以降DMと略記することもある)の一方向として,情報管理を中核においたRdb−QFDについて,生産部門での進め方を説明します.当然のことですが,開発管理工学は企業の全部門の活動に関連することで,生産部門だけで実施されるべきものではありません.とはいえ,一気に全部門に導入するとなると費用的な問題も考えられ,ここでは第一歩として生産部門から着手することを想定しています.
さて,開発期間短縮の阻害要因としては,創造力の欠如や情報伝達の遅延が考えられます.そして,時間軸が考えられていないということが,従来のQFDの弱点でもあるという指摘もあります.さらに,従来のQFDでは,品質,技術,コスト,信頼性が中心でしたが,新たな角度から「情報」を取り上げることが必要と考えられます.
それは開発という活動自体を管理するするためには情報の管理が必要であり,情報の伝達スピードを向上する必要があります.その伝達もリアルタイムであることがベストと考えられます.「情報」という言葉は「情」という文字と「報」という文字が膠着してできていますが,前者は暗黙知に関連し,後者は形式知に関連するということができると思います.そして,形式知の伝達スピードを向上する必要があるのです.
後者の「報」の部分を形式知として展開し,展開表にまとめると,情報展開表ができるはずです.この展開表にまとめられた情報は,関連部門に伝達すべき情報であり,伝達可能な情報です.この情報展開表から,各情報を主管する部門と関連部門を明確にして情報伝達を確実に,しかもリアルタイムに行うシステムを構築するという考えです.
本報告で考えているDMでは,製品を製造する上で,各部門に必要な情報をリアルタイムに伝達するために,まず各部門が主管する情報を抽出し,業務内容の特定を行います.そして関連する部門での情報提供元,情報提供先を明確にすることにより,製造する上での各部門間の伝達情報マトリックスを作成します.次に主管・関連する部門の特定と各部門間の情報伝達の連関を示す情報伝達体系図の作成します.この情報伝達体系図を元にハードウエアを整備し,リアルタイムな情報を活用して開発の効率を向上させます.
2.伝達情報マトリックス
まず,各部門ごとの業務内容を理解する上で,伝達しなければならない情報の抽出を行う必要があります.製品を製造する上で各部門ごとに行なう業務があり,その中には他の部門へ伝達しなければならない情報があります.例えば,設計部門において「製品規格」が決められます.そして,「製品規格」の内容に従い,製造部門においてこの規格内で製造されることになります.するとこの「製品規格」という情報は設計部門から製造部門への伝達情報と考えられます.
また,伝達情報を抽出する際に,設計部門なら設計部門における伝達情報の抽出を行い,製造部門なら製造部門での伝達情報の抽出を行うことになります.その伝達情報を羅列すると以下のようになります.
営業部門:他企業の新製品情報,顧客台帳,お客様カード,官報,特許出願一覧表,法規集,クレーム,市場価格,市場不良率,受注量,売上数,売上金額,保証書,顧客満足度,広告費,市場占有率,新技術開発状況,新素材開発状況
企画部門:企画書,設計図,仕様書
設計部門:製品規格,取扱説明書,設計変更仕様書,設計変更図面,設計標準,設計技術標準,設計審査基準
生産技術部門:製造技術標準,試験基準,試作評価結果
製造部門:工程能力指数,稼働率,作業標準,治工具管理台帳,設備管理台帳,生産数量,生産計画,仕掛品数量,工程不良率,出社人数,製品在庫数量
資材部門:資材発注量,資材在庫量,資材納入日,資材発注先名,資材発注先受注量,資材仕様書,資材試験成績表,資材価格
購買部門:部品発注量,部品在庫量,部品別生産リードタイム,部品納入日,部品発注先名,部品発注先受注量,部品価格,部品仕様書,部品検査票,外注生産能力
総務部門:社員数,職務分掌,天気予報,道路交通情報,有休日程表
これらの情報はほんの一部だと思いますが,このように思い付くままに必要と考えられる情報を列挙します.現状使用している台帳や伝票から伝達情報を抽出することもできると思います.
次に,抽出された伝達情報の中から,各部門で主管される情報を抽出します.各部門で主管される情報とは,当該部門で収集したり,加工したり,発信したりする情報のことです.そこで,縦軸に伝達情報,横軸に各部門をとって二元表にすることによって,各部門で主管される情報を該当欄にチェックすれば分かりやすいと思います.例えば,伝達情報の「他企業の新製品情報」は,営業部門で収集されデータが蓄積され,他部門へ伝達されます.つまり,「他企業の新製品情報」は,営業部門において主管する情報と考えられますので,営業部門にチェックをつけることになります.
次に,抽出された伝達情報の中から,どの部門に関連する情報であるのかを考え,伝達情報を整理します.各部門に関連する情報とは,情報を主管する部門から関連する部門へ伝達されなければならない情報のことです.この情報伝達については,後述する情報伝達体系図において線で示される情報です.例えば,抽出された伝達情報の「他企業の新製品情報」は営業部門が主管する情報で,この情報は企画部門,開発部門,設計部門へ伝達されるべき情報です.つまり,これらの部門に関連する情報です.
このように縦軸に伝達情報,横軸に各部門をとって情報の主管部門と関連部門を示した二元表のことを伝達情報マトリックスといいます.
3.情報伝達体系図
伝達情報を分析することが必要です.伝達情報マトリックスから具体的な実施に向けてハードウエアを準備する必要があります.このために各部門間の伝達情報を分析し,情報伝達体系図を作成する必要があります.情報伝達体系図とは,部門と部門間の伝達情報を示したもので,情報の流れの方向と,伝達すべき情報,各部門が示してあります.情報の流れは,基本的に伝達情報マトリックスに示した部門の上流活動の部門から下流活動の部門の方向に伝達されると考えられますが,リアルタイムな情報伝達も考慮しながら情報の蓄積部門を設定する必要があります.
また,伝達情報を分析すると3つのタイプがあることがわかります.その3つのタイプを以下のように定義しました.
TYPET:コンピュータ内に蓄積され,各部門に伝達されるだけでなく,自動処理されて活用される伝達情報.
TYPEU:コンピュータ内に蓄積され,各部門に伝達されることは当然であるが,他の入力情報との関係において技術的な加工・処理されて活用される伝達情報.
TYPEV:コンピュータ内に蓄積される前に,人間の介在が必要な情報であり,生産技術者が本来の業務として時間をかけるべき業務に関連する伝達情報.
この3つのタイプに分類する目的は,伝達情報がリアルタイムに処理できる情報であるのか,技術的な検討を加え,加工すべき情報であるのかを明確するためです.
情報伝達体系図の作成方法ですが,部門を示すコンピュータの絵と,コンピュータを結ぶ線と,伝達情報の3つを書いて作成します.まず適当な大きさの紙を用意し,部門を示したコンピュータの絵を適当な位置に配置します.そして,コンピュータとコンピュータを線で結び,各線上に伝達情報マトリックスに示された伝達情報を記入します.
この際の作成のルールを決めました.それは以下のルールですが,このルールに従う必要はありません.あくまでも一思案でのルールですから,独自に考えられていいと思います.私達の考えたルールは以下のようです.
・伝達情報に関連する部門が6部門以上ある伝達情報は,情報伝達体系図の見易さを重視し,煩雑さを防ぐため本部に蓄積し,本部から各部門へ伝達することを前提とします.
・外部の情報においては,内部の部門へ情報は窓口を一本化し,伝達されるものとします.
・内部の情報においては,伝達情報の主管部門を◎印で示し,伝達情報に主として関連する部門を○印で示すものとします.
・情報のTYPEごとに色分けし,見易いようにします.
・以上のルールに該当しない伝達情報においては※をつけて,説明を加えます.
次に情報伝達体系図を元にハードウエア・システムを構築することになります.つまり,情報伝達体系図からRdb−QFDの構築に必要なハードウエアを検討することになります.蓄積されるべき情報量を考慮してハードウエアを準備することになりますが,情報量の大きさに余裕を持って見積もる必要があります.
構築すべきシステムは,クライアント・サーバー型のシステムとなると考えられます.情報は中央集中型で管理した方が,情報の管理としてはしやすいのですが,危機管理を考えると分散型にしておく必要があると思います.
4.伝達情報の活用
伝達情報の中で,TYPETに属する情報については,コンピュータ内に蓄積され,各部門に伝達されるだけでなく,自動処理されて活用されます.例えば,工程不良率などについては,製造ラインで自動計測された情報がコンピュータに蓄積され,コンピュータ内部で自動的に管理図が作成され,データが管理限界を越えた時に作業者にポケベルで知らせるなどの処理に利用されます.
資材発注量,部品発注量なども同様に,経理部の年別予算から算出された月別予算や日別予算などの情報を元に,予算を超えるような状況が予想される場合には警告を発するなどの処理に利用されます.工程能力指数,稼働率,生産数量,仕掛品数量などはこの類の情報と考えられます.
伝達情報の中で,TYPEUに属する情報については,コンピュータ内に蓄積され,各部門に伝達されることは当然であるが,他の入力情報との関係において技術的な加工・処理されて活用されます.例えば,生産計画情報に関しては,部品別生産リードタイムや部品発注別受注量との関連から,生産計画どおりの生産が可能であるかがコンピュータ内部で自動的にかつリアルタイムに検討され,生産計画の見直しが必要かどうかがリアルタイムに判断できるように活用されます.
クレームの一部の情報と設計技術標準,製造技術標準,工程能力指数などとの関連情報や,企画書と他企業の新製品開発情報,新技術開発状況,作業標準などとの関連情報はこの類の情報と考えられます.
伝達情報の中で,TYPEVに属する情報については,コンピュータ内に蓄積される前に,人間の介在が必要な情報であり,生産技術者が本来の業務として時間をかけるべき業務に関連する情報です.例えば,設計図に記述される設計値の中で,現状の製造技術や工程能力では生産が不可能と判断されますが,現状打破によってより高度な精度を要求する値で設計したい場合があります.このような場合には設計者が考える設計値を実現するための創意と工夫が必要であり,このために時間を費やすべきなのです.
クレーム情報の内,過去に蓄積されている技術や従来の知識では解決できない問題に対する処理に関する情報はこの類の情報と考えられます.
伝達情報が全てTYPETもしくはTYPEUの情報であれば人間の介在がほぼ必要ない状態になると考えられますが,目的は本来時間をかけるべき仕事に時間をかけることができるような支援システムを構築することです.このためにも,TYPEVに属する情報をTYPETもしくはTYPEUの情報に近づける活動が必要となります.
5.開発管理工学を目指して
本報告では開発管理工学の一方向として,情報管理を中核においたRdb−QFDについて,生産部門での進め方を説明しました.顧客のニーズ,クレームなどの要求項目を技術的な項目に変換し,各部門へリアルタイムに情報伝達を行うことによって,生産に関わる各部門がほぼ同時期に作業に取り掛かれるような情報伝達システムを構築する手順を考案したわけです.
このシステムの根底に流れている考え方は品質機能展開です.単なるDWHとは異なり,情報を整理した上でCEの実現を可能とする手順であると思います.結論として得られた手順をまとめると以下のとおりです.
1)伝達情報の抽出
2)情報関連部門の選定
3)情報主管部門と関連部門の把握
4)伝達情報マトリックスの作成
5)情報の分析(情報のTYPE別分類)
6)情報伝達体系図の作成
7)ハードウエアの構成
8)情報伝達システムの運用
まず,各部門での情報伝達をリアルタイムに行うために,各部門における伝達情報を抽出します.これは,業務内容を特定するために用いられます.この状態では,各部門の主管する伝達情報を抽出しただけであり部門間のつながりが明確にはなっていません.そこで各部門の伝達情報がどの部門に主管するものか,または関連するものかについて縦軸に伝達情報,横軸に各部門をとり,部門間のつながりを示す必要があります.このために新たな伝達情報マトリックスと称する考え方を示しています.
次に,伝達情報を分析し,部門間のつながりを把握して情報伝達体系図を作成します.伝達情報を分析した結果,伝達情報は以下の3TYPEに分類されることがわかりました.
TYPET:コンピュータ内に蓄積され,各部門に伝達されるだけでなく,自動処理されて活用される伝達情報.
TYPEU:コンピュータ内に蓄積され,各部門に伝達されることは当然であるが,他の入力情報との関係において技術的な加工・処理されて活用される伝達情報.
TYPEV:コンピュータ内に蓄積される前に,人間の介在が必要な情報であり,生産技術者が本来の業務として時間をかけるべき業務に関連する伝達情報.
これらの情報を活用してリアルタイム管理を行うわけですが,このためのハードウエアを構築し,運用することになります.このシステムを採用することによって人間がなさなければならない本来の作業に十分な時間がかけられるようになると確信しています.
【過去のトピック一覧】
1998年6月のトピック:
暗黙知と形式知1998年7月のトピック:
Total Quality1998年8月のトピック:
変化の時代1998年9月のトピック:
やさしいQFDの進め方1998年10月のトピック:
Market-in と Product-out1998年11月のトピック:
新しいTQM1998年12月のトピック:
Rdb−QFD