【2月のトピック:サービス業の品質保証項目】
99年2月のトピックは,「サービス業の品質保証項目」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.
1.はじめに
サービス業が提供するサービスという無形財は,多くの場合サービス提供者によって提供されています.自動販売機の発達によって,サービスがマシーンによって提供される場合もありますが,サービスの品質が問題になるのは多くの場合,人対人による接遇サービスです.サービス提供者側の人によるサービスの違いを少なくするために,多くのサービス企業ではマニュアルを作成しています.
しかし,このマニュアルは企業のコンセプトを,どの程度考慮して作られているのかという点については疑問があります.また,サービス提供業務と保証すべき品質は何か,企業コンセプトをどのようにサービス提供業務で実現すべきかについてあまり論じられていません.そこで,企業のコンセプトに基づいた,サービスの品質をスムーズに向上させるための新たなマニュアル作成の方法を確立する必要があると思われます.
今月のトピックでは,ホテルというサービス業を例に挙げ,サービス企業のコンセプトから顧客に保証すべき品質上の項目を明確にし,この品質保証項目を具現化する業務マニュアルの新たな作成方法を考察しています.この流れの概要を説明しますと,顧客に保証すべき品質上の項目を確実に提供するために,当該サービス企業の業務の機能を業務機能として抽出し,業務機能展開表を作成します.そして業務機能から顧客に保証すべき品質を抽出して品質保証項目展開表を作成します.さらにこの業務機能展開表と品質保証項目展開表を二元表にして,業務と品質保証項目の関係を把握します.
一方,当該サービス企業が顧客に提示しているパンフレットなどから,そのサービス企業のコンセプトを具体的な表現で抽出し,このコンセプトに基づくサービス企業の品質保証項目を明らかにします.そして,「サービス企業のコンセプトからの保証項目」と「業務機能からの保証項目」を対比し,当該サービス企業が提供するサービスの品質を向上させるための重要な業務を明確にして,業務マニュアルを作成します.
この一連の流れによって企業コンセプトを具現化し,顧客に確実に品質保証できる業務マニュアルが作成できると考えられ,新たな業務マニュアルの作成方法を提示します.
2.業務機能と品質保証項目
サービス企業が提供するあらゆるサービスを,「業務機能」と「顧客に保証すべき品質」とに明確に分類する必要があります.「業務機能」と「顧客に保証すべき品質」を明確に分類するために,業務機能は「名詞+動詞」の形で表現し,顧客に保証すべき品質は業務機能を修飾する言葉で表現する必要があります.業務機能と顧客に保証すべき品質を表す修飾語を明らかにすることによって,顧客に何を保証すべきかが明確になります.
サービス企業の業務は顧客に保証すべき品質を満たすように実施されるべきです.そこで,「業務機能」と「顧客に保証すべき品質を表す修飾語」の展開表もしくは一覧表を作成します.次に,業務機能と顧客に保証すべき品質の二元表を作成し業務機能と顧客に保証すべき品質の対応関係をチェックします.ここで,この二元表は業務機能から品質保証項目を抽出することを目的として作成することが大切です.この二元表の一部を表1に示します.
表1 業務機能と顧客に保証すべき項目の二元表の例

表1はT型マトリックスの形になっていますが,縦軸には業務機能が展開されており,業務はすべて「名詞+動詞」の形で表現されています.表1では業務が3次の具体的な業務にまで展開されていますが,例えば「観光を案内する」という具体的な業務がこの展開表に記述されています.
この表1の左側には業務機能表現の「名詞」の部分を修飾する言葉,右側には業務機能表現の「動詞」の部分を修飾する言葉が記述されています.そして,業務機能表現の「名詞」の部分と「動詞」の部分を修飾する言葉の中で,それぞれ品質保証上必要な言葉との交点に印が付けられています.これらの組み合わせの表現を考えることによって,サービス提供業務によって何を保証すべきかが明らかになります.
つまり,「観光を案内する」という業務を行う場合,どのようなものをどのように提供すべきかがこの表から読み取ることができます.単に「観光を案内する」のではなく,「多彩な観光を案内する」「多種の観光を案内する」ことが必要ですし,「観光を心地よく案内する」ことが必要になります.このように,業務機能表現の名詞の部分を修飾する言葉と,動詞の部分を修飾する言葉を考えることによって,どのようなものをどのように提供しなければならないのかが明確になります.
以上のような手順で業務機能と顧客に保証すべき品質とが明らかになれば,これらの組み合わせから品質保証項目が明確に示されるようになります.例えば,業務機能の名詞部分と修飾語を組み合わせた「多彩な観光を案内するという業務では「案内の多彩性」を保証する必要があり,これが品質保証項目です.業務機能の動詞部分と修飾語を組み合わせた「観光を心地よく案内する」という業務では「案内の快適性」を保証する必要があり,これが品質保証項目です.
但し,これらの全てを保証しなければならないのではなく,当該サービス企業で重点として顧客に特に提供したいと考えている保証項目を検討すべきです.
3.企業コンセプトと品質保証項目
サービス企業の日常業務を業務機能表現で展開し,業務と品質保証上の項目を明らかにする一方で,顧客に配布される当該サービス企業のパンフレットから当該企業のコンセプトを読み取り,さらにこのコンセプトから当該企業が保証すべき品質保証項目を抽出することも必要です.コンセプトから直接的に品質保証項目の一覧表を作成することもできますが,一つのコンセプトから複数の品質保証項目が抽出されますから,抽出した複数のコンセプトを展開し,コンセプトの上位項目から品質保証項目を抽出する方が良い方法と考えます.
次に企業コンセプトを具現化する業務が存在しているかを検証するために,業務からの品質保証項目とコンセプトからの品質保証項目の二元表を作成し,対応関係をチェックします.このとき,業務機能で顧客に保証できる項目と業務機能では保証できない項目を明確にしておく必要があります.ここで,業務機能では保証できない項目とは,ホテルにおいては立地条件や建物自体の制約などに関係する項目です.また,コンセプトを保証している業務とコンセプトの保証とは関係のない業務を分類して表に記述しますと,サービス提供業務を管理する上で役立つと考えられます.
さらに業務でコンセプトを保証できていない部分の業務を補足します.補足する業務は企業コンセプトからの保証項目で対応関係を考慮し抽出します.このとき,不足している業務については,日常業務からの品質保証項目と企業コンセプトからの品質保証項目の二元表とを並べて明記していくと分かりやすくなります.この二元表の一部を表2に示します.
表2 業務からの品質保証項目とコンセプトからの品質保証項目との二元表の例

表2は縦軸にサービス企業が顧客に配布するパンフレットなどから抽出した品質保証項目が一覧表の形で記述され,横軸には業務機能表現から抽出された品質保証項目が一覧表の形で列挙されています.パンフレットからの品質保証項目には「庭園の快適性」がありますが,日常業務から抽出されの品質保証項目には対応する項目がないため,新たな業務を追加する必要がある,というようなことが分かります.
業務マニュアルを作成するために業務からの品質保証項目とコンセプトからの品質保証項目の二元表より,コンセプトを保証するために重要な業務を抽出します.重要な業務は,コンセプト展開表の上位項目に直接かかわってくる業務です.また,パンフレットにたびたび出てくる表現,および大きな見出しになっているものも重要項目と考えられます.いずれも顧客に対して強い印象を与えている言葉から抽出された項目が重要な業務につながるはずです.この時,業務機能で保証できる部分と業務では保証できない部分の両方に関連する項目についても明確にしておくことが大切です.
4.業務マニュアル
顧客に保証すべき品質上の項目を明らかにした後に,当該サービス企業の業務について管理項目,品質保証項目,管理方法を明確にし,業務マニュアルを作成します.この業務マニュアルは,未経験者であっても一番良い方法を最初からその通りに実施することで一挙に能率向上を実現するものでなくてはなりません.そのためにもどのようなコンセプトを保証するための業務なのかを明確にし,誰にでも分かり易いマニュアルを作成すべきです.この一例を表3に示します.
表3に示した業務マニュアルは,単に業務の手順を示しただけでなく,当該業務を実施することの意義や,品質保証項目を自主管理する方法も併記してあります.マニュアルに示すべき項目として,一番左には業務の大まかな流れを示す業務の大分類,そして各分類ごとの作業プロセスを示す必要があります.この作業プロセスについては,業務機能展開表の業務機能と同様に「名詞+動詞」の形で示し,動詞の部分を体言止(動詞を名詞の形式で記述すること)で示します.
さらに,作業プロセスを手順のレベルにまで落として業務を明らかにし,その業務がなぜ必要であるのか,どのようなことを保証するのかを保証項目として併記します.この保証項目を併記することで,サービス提供者が単に業務を遂行するだけでなく,何故その業務が必要であるのかを理解して作業を行えるようになると思います.
表3
バスルーム清掃業務マニュアルの例
5.まとめ
サービス企業の代表としてホテルの業務を例に挙げ,サービス業務において当該サービス企業のコンセプトを実現する新たな業務マニュアルの作成する方法を提案しました.その方法はまず,当該サービス企業の提供するコンセプトがどの程度考慮されているのかを明確にするため,サービス企業における業務からの品質保証項目とコンセプトからの品質保証項目を抽出し検討します.
次に,業務からの品質保証項目については,当該サービス企業におけるすべての業務を抽出し,業務の機能と顧客に保証すべき品質を表す修飾語を分類します.また,業務機能と顧客に保証すべき品質の二元表を作成し,対応関係より品質保証項目を抽出します.一方,コンセプトからの品質保証項目は,パンフレットなどで強く提示している項目を明確にすることによって抽出されます.また,当該サービス企業の業務機能がどの程度考慮され,作成されているのかを検討するには,業務からの品質保証項目とコンセプトからの品質保証項目との二元表を作成し,対応関係より明確にします.
さらに,コンセプトが業務で保証されていない部分についての業務を補足します.ここでは,業務からの品質保証項目とコンセプトからの品質保証項目の二元表より,対応関係の無いものについての業務を補足します.また,二元表より,主要なコンセプトを保証することと密接に関係する業務を抽出します.
最後に,業務マニュアルは誰が実施しても変わらないサービスが出来るように作られていなければなりませんから,業務と保証項目,管理方法など一目見て直ぐにわかる表を作成することが必要です.
この一連の流れによって,企業コンセプトを具現化し,顧客に確実に品質保証できる業務マニュアルが作成できると思います.
【過去のトピック一覧】
1998年6月のトピック:
暗黙知と形式知1998年7月のトピック:
Total Quality1998年8月のトピック:
変化の時代1998年9月のトピック:
やさしいQFDの進め方1998年10月のトピック:
Market-in と Product-out1998年11月のトピック:
新しいTQM1998年12月のトピック:
Rdb−QFD1999年1月のトピック:
QFDと開発管理工学