【4月のトピック:価値企画】

 

99年4月のトピックは,「価値企画」を取り上げました.このトピックは毎月アップデイトしていく予定です.取り上げて欲しいテーマがありましたら,遠慮なくお申し出でください.また,過去のトピックを読みたい方は,文末の一覧から選択して読むことができます.

 

1.企画の対象

新商品を短期間に開発することが企業に求められていますが,商品の開発には一般的に企画・設計・生産・提供という手順が必要と考えられています.このステップを同時に進める考え方として,コンカレント・エンジニアリングという考え方も示されていますが,企画の対象をどのように考えるべきかについてはあまり議論されていないと思います.

今月のトピックでは,企画とは何なのか,開発ステップをどのように考えるべきなのか,企画の対象をどのように考えるべきなのかを原点に戻って考察したいと思います.従来,企画の対象は一般的には商品でした.商品以外に,原価企画や信頼性企画などもあり,イベントの企画,事業の企画などもありますが,ここでは製品なりサービスを提供する企業が企画する提供財に焦点を絞り,企画の対象を再考したいと思います.

そこで,まず企画という言葉は一般的にどのように定義されているのかについて,辞書などを調べた結果を示し,企画という言葉がどのような意味を持っているのかをお話したいと思います.当然,企画という言葉だけではなく,企画に関連する開発ということばについても考察します.次に,開発ステップはどのようなものであるのかについて,調べた結果を示し,開発の範囲を考えたいと思います.

これらの結果を元に,企画の対象をどのようにかんがえるべきかという私見を述べたいと思います.結論から申し上げますと,商品企画という考え方から価値創造,価値企画へと考え方を変えるべきではないかと思っています.そこで,価値とはなにかについても多少お話したいと思っています.

 

2.企画に関する用語の定義

企画という言葉について,まず考えたいと思います.研究者の間ではよく行われるのですが,企画という言葉を辞書で調べてみました.いつも思うことですが,辞書で調べていくと,似た言葉を捜して並べているだけということが分かります.でも,この繰り返しによって理解をせざるを得ないということもわかります.今回は広辞苑と大辞泉を使って,企画に関連する言葉を調べてみました.広辞苑については既に第5版が出版されていますが,手元には第4版しかなかったので,現在の定義は変わっているかもしれませんが,調査結果は以下のようです.

企画:計画を立てること.もくろみ.くわだて.(広辞苑第4版)

企画:ある事を行うために計画をたてること.また,その計画.くわだて.(大辞泉)

企て:くわだてること.もくろみ.計画.(広辞苑第4版)

企て:計画を立てること.また,その内容.もくろみ.計画.(大辞泉)

もくろみ(目論見):もくろむこと.計画.設計.心算.(広辞苑第4版)

もくろみ(目論見):もくろむこと.また,その内容.計画.企て.(大辞泉)

計画:物事を行うに当たって,方法・手順などを考え企てること.また,その企ての内容.もくろみ.はかりごと.くわだて.プラン.(広辞苑第4版)

計画:ある事を行うために,あらかじめ方法や順序などを考えること.また,その考えの内容.もくろみ.プラン.(大辞泉)

心算:心の中の計画.心づもり.胸算用.(広辞苑第4版)

以上の結果からも分かるように,企画も計画もあまり変わりがなく,「企画を立てる」なんて言うと「計画を立てることを立てる」ということになってしまいます.また,一般的に企業で言われている企画室とか企画部門という場合の企画とは多少ニュアンスが違うようにも思われます.そこで次に開発という言葉や設計という言葉についても調べてみました.

開発:@(天然資源を)生活に役立つようにすること.A実用化すること.B知恵を開き導くこと.(広辞苑第4版)

開発:@土地・鉱産物・水力などの天然資源を活用して,農場・工場・住宅などをつくり,その地域の産業や交通を盛んにすること.A新しい技術や製品を実用化すること.B知恵や能力などを導きだし,活用させること.(大辞泉)

設計:@ある目的を具体化する作業.製作・工事などに当り,工費・敷地・材料および構造上の諸点などの計画を立て図面その他の方式で明示すること.A比喩的に,人生や生活について計画を立てること.(広辞苑第4版)

設計:@建造物の工事,機械の製造などに際し,対象物の構造・材料・製作法などの計画を図面に表すこと.A一般に,計画を立てること.また,その計画.(大辞泉)

設計:製品企画の段階で,企画された製品の真の特性を管理可能な代用特性に変換し,図面・要領書等で明示すること.特に狙いの品質を具体化していく活動を品質設計と呼んでいる.(TQC用語辞典)

以上の結果からも分かるように,開発という言葉は,一般の@での意味よりも,生産活動に携わる人達はAの意味に使用しているということがわかります.上記の話ではないですが,「企画の立て方」という本では次のように定義しています.

企画:星野匡『企画の立て方』日経文庫

「ある課題にもとづいて,その課題を達成するためになすべき仕事のイメージを描き,全体的なまた細部にわたる構想を練って取りまとめ,提案する時,その提案内容およびまとめるに至る過程の作業を,企画といいます.」

 

3.開発ステップのあれこれ

企画とか開発という言葉を調べると,開発という言葉がかなり広範囲の意味を持っているということが分かりました.そこで,開発の手順というかステップについて調査してみました.製品開発プロセス,製品開発の流れ,新製品開発ステップなど言葉はさまざまですが,開発の各段階を言葉で説明しています.この流れの中で用いられている言葉をみてみると,いろいろな考え方があることがわかります.

1)神田範明:『商品企画七つ道具』

企画と開発

企画→技術研究→設計→試作→テスト販売評価・改良→パッケージング広告企画→量産設計生産準備→量産・販売

2)圓川隆夫:『製品開発論』

製品開発プロセス

製品コンセプト創造→開発計画立案→製品仕様決定→製品設計→生産ライン設計→生産→事後開発→顧客使用→撤去

3)鈴江歳夫:『コンカレントエンジニアリングの進め方』

製品開発プロセス

商品仕様決定→製品・設計→試作→生産準備→生産立上・量産→販売→サービス

4)福田収一:『コンカレントエンジニアリング』

製品開発の流れ

概念設計→予備設計→詳細設計→生産設計→生産→供用

5)ドン・クロージング:『TQD(Total Quality Development)』

フェーズ

コンセプト(仕様)→設計→生産準備→生産

6)フィリップ・コトラー:『マーケティング・マネジメント(第4版)』

新製品開発プロセス

アイデア創出→アイデア・スクリーニング→製品コンセプトの開発とテスト→マーケティング戦略の開発→事業収益性分析→製品開発→マーケット・テスト→事業化

7)久米均:『新製品開発における品質管理』

新製品開発ステップ

開発提案→製品構想→研究・研究試作→基本設計→詳細設計→開発試作→製品化計画→生産準備→販売準備→サービス準備→工場試作→本生産→販売,サービス初期流動管理→新製品開発システムの見直し

8)長沢伸也:『顧客価値の創造』

価値提供システム(バリュー・デリバリー・システム)

求められる「価値」の理解→ターゲットの選択→ベネフィットと価格の設定→商品および提供プロセスの設計→原料調達・生産の設計→物流設計→サービス設計→価格の設計→販売→広告宣伝→プロモーション・PR

出典:マッキンゼー・マーケティング・グループ編(1994)『「消費者最優先」企業の時代』

長沢伸也氏の価値提供システムという流れは,他のステップとは違った流れですが,現在もっとも注目すべき流れではないかと考えています.また,マーケティング分野の第一人者であるコトラーの流れにも注目して頂きたいと思います.他のステップでは「生産」に関する言葉が入っていますが,従来のマーケティングの分野でのステップでは「生産」という考え方が入っていません.このことも,開発のステップもしくは企画ということを考えた時に重要なヒントを与えてくれると思います.

また,最後に示した長沢伸也氏の『顧客価値の創造』という月間テキストの中で,同氏は「お客様は何に価値を求めているのか,から出発しないといけない」ということを述べており,企画もしくは開発をする場合の重要な示唆が示されていると思います.

 

4.価値とニーズ

さて,今月のトピックでは企画を考えているのですが,設計のアウト・プットは設計図なり仕様書と考えられます.そして,生産のアウト・プットは製品なりサービスですが,企画のアウト・プットは何なのでしょうか.企画書もしくは「???」でしょうか.

例えば旅行業者の場合,企画としては「フランスでワールド・カップを」というようなことが提示され,設計では「具体的な日程表」が提示され,生産は「実際の旅行」ということになると思います.ブティックの場合では,企画としては「デザイン・スケッチ」,設計では「型紙」,そして生産では「ドレス」ということになると思います.

最終的な顧客の購買行動は,生産のアウト・プットである「ドレス」なり「旅行」の購入ということだと思いますが,「ドレス」なり「旅行」を顧客は求めているのでしょうか.この辺のことを価値との関係で考えたいと思います.その前に,チョット寄り道をして顧客のニーズを考えたいと思います.

キーニーズ法という考え方があります.これは梅澤伸嘉氏が考えたものですが,『消費者ニーズの法則』という本を出版しています.この書物の中で梅澤伸嘉氏は,まず次のような10の基本ニーズの存在を示しています.

基本ニーズ:

@心豊な人生を送りたい (豊かさニーズ)

A尊敬されたり,認められたりする人生を送りたい (尊敬ニーズ)

B自分を高める人生を送りたい (自己向上ニーズ)

C愛されて生きる人生を送りたい (愛情ニーズ)

D元気な人生を送りたい (健康ニーズ)

E自分らしく生きる人生を送りたい (個性ニーズ)

F楽しい人生を送りたい (楽しさニーズ)

G心ときめかせる感動の人生を送りたい (感動ニーズ)

H仲良く,心暖まる人生を送りたい (交心ニーズ)

I快適な人生を送りたい (快適ニーズ)

そして,基本ニーズから行為ニーズ(生活ニーズ)と対象・所有ニーズ(商品ニーズ)が生れてくると考えています.さらに,「商品開発など,ビジネスの直接の対象となるニーズは通常「行為ニーズ」である」といっています.行為ニーズはDoのニーズ,対象・所有ニーズ(商品ニーズ)はHaveのニーズともいわれています.このことを次のように説明しています.

基本ニーズ → 行為ニーズ → 対象・所有ニーズ

例: 健康ニーズ → ジョギングする → ジョギング・シューズを購入する

つまり,「元気な人生を送りたい」という基本ニーズとしての健康ニーズがあり,元気な人生を送るために「ジョギングをしようか」という行為のニーズが発生します.すると「ジョギングをする」ために「ジョギング・シューズ」を購入するという対象・所有ニーズがおこり,最終的に顧客はジョギング・シューズを購入するという購買行動を起こすというのです.

商品を企画する場合に,基本ニーズから考えるという流れは大切だと思います.しかし,概念を広げて考えれば,これらのニーズは一種の価値と考えることができると思います.そして,長沢伸也氏が指摘しているように,これらのニーズの価値から考えることが必要なのではないでしょうか.

しかし,単に価値といっても,価値という言葉に膠着する言葉もさまざまです.機能価値,品質価値,所有価値(ブランド品,ピアノ,百科事典,株券)という切り口も考えられますし,VEの分野で著名な田中康男氏は「希少価値」「使用価値」「交換価値」「実用価値」「美的価値」というような言葉で価値の説明をしています.

前出の長沢伸也氏の『顧客価値の創造』というテキストの中では,コトラーを引用して,「顧客提供価値」「総顧客価値」「製品価値」「サービス価値」「人的価値」「イメージ価値」という言葉で価値を説明したり,アルブレヒトを引用して「基本価値」「期待価値」「願望価値」「未知価値」という言葉も用いています.

 

5.商品企画から価値企画へ

価値についての分類や考え方についても今後研究していく必要があると思いますが,企画の対象として,商品を考えるだけではなく,何故その商品が必要であるのかという,もっと根本に立ち入っていく必要があると思います.商品というのは梅澤伸嘉氏のキーニーズ法における対象・所有ニーズに該当すると考えられます.

カール・アルブレヒトの『見えざる顧客』という書物の中に,「『機能』を捨て『貢献』を考える」という言葉があります.そして,「経済の新たなる方向性・・『見えざる資産』を管理する」という言葉も出てきます.顧客が提示する顕在要求から潜在要求を把握することが必要ですが,「見えざる??」を明らかにする必要があると思います.

この「見えざる??」ということを考えた時,企画する対象を「商品」から「価値」に変えていくことが,顧客の満足を得られる商品の開発につながるのではないでしょうか.西原良治氏が研究したリフレクター(時代の変化を写し出す鏡)も企画を考えることに有効な事柄と考えます.リフレクターには「現実逃避欲求」「変身願望」「ピーターパン・シンドローム」「少子化」「高齢化」などさまざま考えられますが,これらと価値との関係を考察することも必要と思います.

企画の対象・結果をどのように表現すべきであるのかの企画表現法も明確にすることも必要ですが,「商品企画」から「価値創造」もしくは「価値企画」へと企画の対象範囲を広げていくと,「品質」も価値,「機能」も価値,そして,品質や機能以外の価値が存在して製品やサービスが存在し,提供されていることが理解できると思います.

 

【過去のトピック一覧】

1998年6月のトピック:暗黙知と形式知

1998年7月のトピック:Total Quality

1998年8月のトピック:変化の時代

1998年9月のトピック:やさしいQFDの進め方

1998年10月のトピック:Market-in と Product-out

1998年11月のトピック:新しいTQM

1998年12月のトピック:Rdb−QFD

1999年1月のトピック:QFDと開発管理工学

1999年2月のトピック:サービス業の品質保証項目

1999年3月のトピック:21世紀の予言