知能モデリングプロジェクト(大森隆司)では、人間における他者意図の推定に代表されるような他者理解の問題解決過程に注目し、自己に関する知識を用いて外見的な行動から他者の意図を推定する計算モデルを提案して計算機シミュレーションでその妥当性を確認しました。他者理解は心の理論に関連した発達の重要な一段階ですが、その情報処理としての理解は幼児が段階的にその能力を増加していく一過程における機能を象徴するものであり、心の発達の中に脳の情報処理として位置づけられるべきものです。
身体を正確かつ巧みに動かすには、筋肉や骨格などの身体的な発達だけでなく、脳が実現する知的な能力もまた大きく関与します。身体と知的発達の関連性プロジェクトでは(野田雄二)、子供の発達過程における脳の発達と身体発達の関係性を検討するため、身体的発達と知的発達との間の関連性、注意能力発達について、約500名の児童を対象とした行動調査を行い、過去のデータとの比較分析を行ってきました。その結果、現在の子どもは20年前と比較し体格は低下していますが、体力、知能は高くなっていました。また身体を巧みに動かす能力(巧緻性)と知能の間には相関は認められなかったこと及び持続的注意検査(CPT: continuous performance test) の反応時間のばらつきが10歳ぐらいから減少することから、4〜6歳児は身体をより正確かつ巧みに動かすために運動を意識的には制御していない、10歳頃から身体を意識的に制御できるようになってくる、という仮説が提起されました。
空間情報の目的的操作と利用過程の解明プロジェクト(高平小百合)では、空間的思考能力の中でも特に個人差や性差、理系・文系差が表れる空間的操作(心的回転)能力に注目しました。そして心的回転操作課題におけるfMRIと眼球運動の同期的同時計測という先駆的方法により、空間情報処理がどのような過程で行われるのか、その熟達化の過程に注目して解明してきました。その結果、眼球運動の変数が心的回転のperformanceの違いを反映し、それが異なる脳賦活部位と関連していることが明らかとなり、さらにhighおよびlow performerの能力の決定要因と関係のあることが示唆されました。眼球運動のこの特徴は、数学問題解決においても同様に見られ、教育分野での思考過程の理解にも役立つと思われます。