統合失調症は例えば視覚刺激と聴覚刺激が同時に与えられ、状況に応じてどちらかの感覚入力に注意を切り換えながら行動を制御することが求められるような課題を不得意とします。このような課題を遂行する場合、要求に合わせて選択的注意信号を発生する脳機能が賦活し、そこで発生したtop-down信号が視覚情報処理領域および聴覚情報処理領域に送られ、それぞれの領域から行動決定をする脳領域に入力するbottom-up信号の強さを増強あるいは減弱する制御が行われていると予想されます。そこで統合失調症の注意機能の障害を捉えるために、視聴覚ターゲット検出課題遂行時の課題準備時と課題時の脳賦活部位をfMRIで調べました。
実験を行った結果、視覚刺激・聴覚刺激が同時に呈示される課題では、注意が視覚刺激、聴覚刺激どちらに向いているときでも、STSの賦活を認めました。focus attention に関してJohnson AJらは、被験者が感覚刺激に対して注意を向けたとき、注意を向けている感覚に対応する感覚野の賦活がモダリティによらず強く認められると報告しています(Johnson AJ, Cerebral Cortex 2005)。健常者では実際の課題の実行中に限らず、instruction画面を見て構えをつくっている時でも、これと同様の傾向を示しました。しかし統合失調症では、構えをつくる段階で聴覚に注意が向いているときでも聴覚関連領野(STS)の活動が認められませんでした。統合失調症ではターゲット検出課題時に実際に聴覚刺激があるときはSTSの活動が認められることから、STSの機能が全般的に低下しているわけではなく、課題に応じて、それに対応するネットワークを使って構えをつくることができていないというように考えられます。
健常者の課題準備に関わる脳部位
統合失調症患者の課題準備に関わる脳部位
これらの結果から、統合失調症は健常者と別な戦略をもって課題への構えをつくりあげ、さらに実際の課題への頑強な構えを作りあげることができないといった注意障害があるのではないかと考えられます。