酸性雨は、化石燃料などの燃焼で生じる硫黄酸化物や窒素酸化物などが大気中で反応して生じる硫酸や硝酸などを取り込んで生じると考えられるpHの低い雨のことをいいますが、雨の他に霧や雪など(湿性沈着)及びガスやエアロゾルの形態で沈着するもの(乾性沈着)を全てあわせて酸性雨と呼んでいます。
欧米では、酸性雨によると考えられる湖沼の酸性化や森林の衰退が報告され、国境を越えた国際的な問題となっています。
一方、わが国においては、環境庁の調査結果では、欧米なみの酸性雨が観測されていますが、生態系への影響については明確な兆候はみられていません。しかし、酸性雨が今後も降り続くとすれば、将来、影響発現の可能性が懸念されています。

酸性雨が生じる仕組みを簡単に示すと、次のようになります。

火力発電所、工場などの発生源(固定発生源といいます)や自動車、飛行機などの発生源(移動発生源といいます)から硫黄酸化物や窒素酸化物が排出されます 排出された硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中で硫酸、硝酸等に変化します 大気中で変化した硫酸や硝酸等が雨や雪等に取り込まれて地上に降下します(これを酸性雨といいます)


酸性雨による影響はヨーロッパ、北米などの先進工業国のほかに、中国、東南アジアなど世界的な規模で発生しています。

酸性雨の特色として、硫黄酸化物や窒素酸化物などの原因物質が発生源となる地域から数千キロも離れた地域に運ばれることが挙げられます。

酸性雨は、従来、先進国の問題と考えられてきましたが、近年、開発途上国における工業化の進展により、大気汚染物質の排出量は増加しており、広域的な酸性雨の被害も大きな問題となってきています。地球サミットで採択された「アジェンダ21」でも、先進国のみならず、開発途上国も含めて今後、酸性雨等広域的な環境問題への取組を強化すべきとしています。

◆湖沼への影響

特にヨーロッパや北米では酸性雨による湖沼の酸性化が深刻な問題になっています。
このため、酸性化した湖沼を中和するために大量の石灰を散布するなどの処置を行っている国もあります。
◆森林への影響

酸性雨や硫黄酸化物、窒素酸化物、オゾン等の大気汚染物質が複合的に作用することにより樹木の黄変、芽や葉の喪失、樹木の枯死などの影響が生じることが、ヨーロッパ諸国等において報告されています。酸性雨による森林への影響としては、ドイツのシュバルツバルト(黒い森)の被害に代表されるようにヨーロッパでは非常に深刻な問題となっており、また、北米や中国においても大規模な被害が報告されています。
◆その他の影響

その他の影響として、

などが問題となっている国もあります。


酸性雨による被害の深刻な欧米を中心として、酸性雨対策の国際的な取り組みがなされています。

◆長距離越境大気汚染条約

1979年に国連欧州経済委員会(UNECE)において採択された条約で1983年3月に発効しました。この条約では加盟各国に越境大気汚染防止のための政策を求めるとともに、硫黄などの排出防止技術の開発、酸性雨影響の研究の推進、国際協力の実施、酸性雨モニタリングの実施、情報交換の推進、などが規定されています。
◆ヘルシンキ議定書

長距離越境大気汚染条約に基づき、国連欧州経済委員会に属する21カ国が1985年に署名し、1987年9月に発効したものです。この議定書では、各国が1980年時点の硫黄の排出量の最低限30%を1993年までに削減することを定めています。
ソフィア議定書

長距離越境大気汚染条約に基づき、国連欧州経済委員会に属する25カ国が1988年に署名し、1991年2月に発効したものです。この議定書では、1994年までに窒素酸化物の排出量を1987年時点の排出量に凍結することを定めています。同時に新規の施設と自動車に対しては経済的に使用可能な最良の技術に基づく排出基準を適用しなければならないことを規定しています。また、無鉛ガソリンの十分な供給も義務づけています。また、スイスを中心とした西欧12カ国では、1989年から10年間で窒素酸化物の排出量を30%削減することを宣言しています。

●日本での取り組み

第1次酸性雨対策調査(1983年〜1987年)

日本においても酸性雨による影響が問題視されはじめたことから、全国の測定地点において降雨中のphの測定を行ったものです。この調査では多くの測定点でかなり酸性度の高い降下物が観測されています。

第2次酸性雨対策調査(1988年〜1992年)

第1次調査の結果を踏まえ、酸性雨の実体やその生態系への影響を監視・予測するために総合的なモニタリング調査を実施したものです。この第2次調査の結果では酸性雨による明確な生態系への影響は確認できませんでしたが、引き続き酸性度の高い酸性降下物量が観測されており、将来、酸性雨による深刻な影響が現れる可能性があることが懸念されています。このため、引き続きモニタリングを継続するとともに、1990年に設けられた「地球環境研究総合推進費」等により酸性雨に関する調査・研究の充実が図られています。

第3次酸性雨対策調査(1993年〜1997年)

第3次酸性雨対策調査の取りまとめによれば、調査期間中のphは4.8〜4.9(年平均値の全国平均値)で、第2次調査の結果とほぼ同じレベルの酸性雨が観測され、これまで森林、湖沼等の被害が報告されている欧米と比べてもほぼ同程度の酸性度となっています。
酸性雨による生態系への影響は現時点では明らかになっておりませんが、このような酸性雨が今後も降り続ければ、将来影響が現れる可能性もあります。また、東南アジアでは、経済発展に伴い硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量が増大しており、酸性雨による悪影響の未然防止のための国際的な取組を進めることとしています。
このため、環境庁では、東アジア地域共同の取組の第一歩として、「東南アジア酸性雨モニタリングネットワーク構想」を提唱し、2000年に予定されているネットワークの正式稼働に向けて試行稼働を1998年4月から実施しており、関係各国及び国際機関の協力の下、積極的な取組を進めています。なお、1998年〜2000年までの3ヵ年計画で第4次酸性雨対策調査を開始しています。

 


酸性雨は化石燃料の使用による大気汚染物質の発生がその原因となっています。
発生源としては工場や発電所などの固定発生源と自動車などの移動発生源が主なものです。
私たちにできることとしては、

などがあります。

また、酸性雨の問題は周辺地域における大気汚染物質の排出抑制も大きな課題です。そのため、日本の進んだ技術(脱硫装置・脱硝装置、自動車排出ガス抑制技術など)、人材、ノウハウを積極的に海外へ提供していくことが重要となっています。このような取り組みを理解し、実施している機関(NGOや行政)に協力していくことも私たちの大事な役割といえます。

私たちが日常の生活の中でできる省エネルギー対策の例やアイデアを「環境にやさしい生活ガイド」の中にまとめています。