地球をとりまくオゾン層は、太陽光に含まれる有害な紫外線の大部分を吸収し、われわれ生物を守っています。
一方、代表的なフロンであるCFC(クロロフルオロカーボン)は冷媒、洗浄剤、発泡剤などに広く利用されてきましたが、いったん環境中に放出されると成層圏にまで達し、そこで強い紫外線を浴びて塩素を放出してオゾン層を破壊します。
その結果、地上に達する有害紫外線の照射量が増加し、皮膚がんの増加、生態系への悪影響などが生じるおそれがあります。

大切なオゾン層がCFCなどの人工の化学物質によって破壊されていることが明らかになっています。
そのメカニズムを簡単に示すと次のようになります。

 ◎地上から
特定の種類のフロンは化学的に安定な物質であるため、大気中に放出されると対流圏ではほとんど分解されずに成層圏まで達します。
 ◎成層圏で
成層圏では太陽光線(紫外線)を吸収して分解し、塩素原子を放出します。
 ◎そして
この塩素原子がオゾンを分解する原因物質となります。しかもこの分解の反応は連鎖反応となり、1個の塩素原子によって数万個のオゾン分子が分解されるといわれています。

オゾン層を破壊する物質としてはCFCの他に、ハロン、1,1,1-トリクロロエタン、四塩化炭素、HCFC(代替フロンの一種)、臭化メチルなどがあります。

地球規模でみた場合、熱帯域を除き長期的・全地球的にオゾン層の減少傾向が続いています。
特に顕著なのは南極上空のオゾン層の減少で、9月〜10月頃にかけて南極上空のオゾン層が著しく減少する現象をオゾンホールと言い、1970年代の終わり頃から観測されるようになりました。また、このオゾンホールは近年大規模化が進んでいます。

 1985年に英国のファーマンらによって南極上空のオゾンホールについて報告されて以来、毎年9〜11月頃に南極上空でオゾンホールが観測されており、特に1998年には、過去最大規模のオゾンホールが出現しています。
オゾンホールの面積の経年変化
(気象庁 オゾン層観測報告1998)
(注)オゾンホールの面積:オゾン全量が220m atm−cm以下の領域の面積


1979年10月 1998年10月

1979年10月、1998年10月の月平均オゾン全量の南半球分布
                              
(気象庁提供データ)

(注)m atm−cm:オゾン全量を表す単位。オゾン全量とは、大気の鉛直気柱に含まれるオゾン量をいい、300m atm−cm は、この気柱の中の全てのオゾンを0度(摂氏)・1気圧に圧縮したとき、3mmの厚さに相当する。

 

しかし、モントリオール議定書による規制の効果により、北半球中緯度付近においては、CFC-11,-12,-113の濃度の増加傾向の鈍化がみられます。

オゾン層が破壊されることにより地上に降り注ぐ紫外線が増加(特に波長の短い有害な紫外線ほど影響が大きい)します。このため、例えば私たちの生活や環境に対する以下のような悪影響の生じるおそれがあります。

 ○人体への直接的影響
皮膚ガンの増加
免疫機能の低下
白内障の増加  など
 ○農作物への被害
稲や大豆など紫外線に対する感受性が高い作物の減収
 ○生態系への影響
水生生物、特に動・植物プランクトン、カニ及びエビの幼生、稚魚のような小さな生物への悪影響

◆オゾン層保護のための国際的な取組み

オゾン層の保護に関しては、国際的な枠組みとして国連環境計画(UNEP)を中心として検討を重ね、1985年3月に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が採択されました。
そして1987年9月にはこのウィーン条約に基づいて具体的な規制を盛り込んだ「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択されています。このモントリオール議定書によって5種類の特定フロンおよび3種類の特定ハロンの生産量の削減が合意されました。
その後、その他のオゾン破壊物質も規制物質として追加されて、それぞれ削減スケジュールが定められ、CFC等の生産を1996年までに全廃するなど規制物質の削減に努めています。

モントリオール議定書に基づく規制スケジュール(1997年9月改正)

物 質 名 先進国に対する規則スケジュール 途上国に対する規則スケジュール
附属書A グループT 1989 年以降 1986年比 100 %以下 1999 年以降 基準量比※7 100 %以下
(特定フロン)※1 1994   25 %以下 2005   50 %以下
  1996 全廃     2007   15 %以下
            2010 全廃    
附属書A グループU 1992 年以降 1986年比 100 %以下 2002 年以降 基準量比※7 100 %以下
(ハロン)※2 1994 全廃     2005   50 %以下
            2010 全廃    
附属書B グループT 1993 年以降 1989年比 80 %以下 2003 年以降 基準量比※8 80 %以下
(その他のCFC)※3 1994   25 %以下 2007   15 %以下
  1996 全廃     2010 全廃    
附属書B グループU 1995 年以降 1989年比 15 %以下 2005 年以降 基準量比※8 15 %以下
(四塩化炭素) 1996 全廃     2010 全廃    
附属書B グループV 1993 年以降 1989年比 100 %以下 2003 年以降 基準量比※8 100 %以下
(1.1.1-トリクロロエタン) 1994   50 %以下 2005   70 %以下
  1996 全廃     2010   30 %以下
            2015 全廃    
附属書C グループT 1996 年以降 基準量※6(キャップ2.8%)比 100 %以下 2016 年以降  2015年比 100 %以下
(HCFC)※4 2004   65 %以下 2040 全廃    
  2010   35 %以下          
  2015   10 %以下          
  2020 全廃              
      (既存機器への補充用を除く)              
附属書C グループU 1996 年以降 全廃     1996 年以降 全廃    
(HBFC)                    
附属書E グループT 1995 年以降 1991年比 100 %以下 2002 年以降 基準量比※9 100 %以下
(臭化メチル)※5 1999   75 %以下 2005   80 %以下
  2001   50 %以下 2015 全廃    
  2003   30 %以下     (クルティカルユースを除く)    
  2005 全廃              
      (クリティカルユースを除く)              

各物質のグループ毎に、生産量及び次式で算定される消費量が削減されている。
消費量=(生産量)+(輸入量)−(輸出量)
(※1)CFC−11,12,113,114,115
(※2)halonー1211,1301,2402
(※3)CFC−13,111,211,212,213,214,215,216,217
(※4)HCFC−21,22,31,121,122,123,124,131,132,133,141,142,151,221,222,223,224,225,226,231,232,233,234,235,241,242,243,244,251,252,253,261,262,271
    なお、HCFCは消費量のみが規制される。
(※5)検疫及び出荷前処理用として使用される臭化メチルは、規制対象外となっている。
(※6)基準量は、次式で算定される。なお、次式中のx%をキャップと呼ぶ。
    基準量=HCFCの1989年消費量算定値+CFCの1989年消費量算定値×(x%)
(※7)基準量は、1995年から1997年までの生産量・消費量の平均値または生産量・消費量が1人あたり0.3キログラムとなる値のいずれか低い値
(※8)基準量は、1998年から2000年までの生産量・消費量の平均値または生産量・消費量が1人当たり0.2キログラムとなる値のいずれか低い値
(※9)基準量は、1995年から1998年までの生産量・消費量の平均値

◆オゾン層保護のための日本の取組

わが国はウィーン条約及びモントリオール議定書に加入するとともに、これらの国際約束を的確かつ円滑に実施するため、1988年に「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(オゾン層保護法)を制定しています。オゾン法保護法はモントリオール議定書の改正を受けて1991年と1994年及び1998年に改正を行っています。
オゾン層保護法ではモントリオール議定書で規制の対象となっている物質を「特定物質」として、

などの規定を設けています。

私たちは何をすればいいの?

オゾン層保護法により、フロン使用事業者における排出の抑制や使用の合理化を義務づけていますが、一般市民に対する規制は定められていません。しかし、身の回りにもフロンを用いている生活用品はまだまだたくさん残っています。
特に、冷媒として使用されているフロンについては、機器を廃棄する際にフロンを大気中へ放出せずに回収し、分解処理(破壊)することが望ましく、そのために事業者や使用者等が応分の費用負担や協力をする必要があります。

また、

など、ちょっとした行動や問題意識の持ち方により、フロンの排出を抑制できるだけでなく、事業者の意識改革にもつながります。さらに、地域で設置されているフロン回収等推進協議会などの活動に協力することにより、フロンの排出抑制に一層貢献する事もできます。