はじめてのミツバチ (購入群の導入)
セイヨウミツバチを飼育する場合,養蜂問屋から種々の器具と一緒に,ますミツバチを購入することになります.このページでは到着したミツバチの扱いについて述べます.最初の出会いさえ失敗しなければ,ミツバチはぐっと身近なものになります.なお,飼育方法には個々の養蜂家にも流儀があります.それぞれに創意工夫があり,なるほどと思う部分はあるのですが,ここでは玉川大学で学生が管理している飼育方法から,新規購入群の導入法を紹介しています.
この時点で,入手しているべき道具は,面布,ハイブツール,燻煙器,巣箱本体,分割板です.そのほか,すぐに必要となるのは,継ぎ箱,給餌枠,巣礎枠,分離器,蜜刀などです.問屋のカタログなどを見て確認しましょう.
最近は,ミツバチも宅配便などを利用して送られてきます.右図のような状態が到着したての蜂群です.玉川大学では,主に愛知県からミツバチを購入することが多いのですが,現地を前夜出発して,午前中には大学に到着します.ミツバチにとって20時間弱の旅になります.

業者にもよりますが,そのまま飼育できる標準サイズの巣箱(右図の右側)で送ってもらうことも可能です.一般には右図の左側のように,少し小さめの箱(運搬箱といいます)で送ってくれるところが多いです.巣板数は5〜6枚のところが多く,届いた蜂量では,採蜜も越冬もできませんので,到着後,必要な蜂量に増やす必要があります.

到着後,基本的には不要になる運搬箱は,交尾のシーズンには交尾箱としても利用が可能です.また,道具入れや,巣板の保存容器としても利用できます.

到着後,まず第一番にすることは,ミツバチが無事かどうかの確認です.運搬中の車内の換気が悪かったり,高温になったりすると,ミツバチが巣箱内の温度を下げることができずに,多数の蜂が死ぬことがあります.必ず換気窓から網越しに中を確認します.ミツバチが死んでいないか,ちゃんと羽音が聞こえるかなど,異常のないことを確認して下さい.

届いたばかりのミツバチは,車の中で揺られて来たばかりで,まだ興奮が冷めていません.そのまま開けてしまうと多くの働き蜂が巣を飛び出してしまい,新しい巣の場所を覚えていないために,巣に戻れないことになります.ますは,巣門は閉じたまま,換気窓の網越しに外気を取り入れさせて,そのまま1〜2時間ほど,静かに置いておきます.置き場所は,直射日光や降雨を避けられる,風通しのよい場所を選びます.この時点では最終的に蜂群を設置する場所ではなくても大丈夫ですが,せめて同じ蜂場内に置きたいです.この間に,最終的に置く場所の再確認や,必要な作業をしておきます.

静置後,蜂群を新しい巣箱に移し替えます.これから入れる巣箱の方を,最終的な設置場所に置き,そのすぐ後ろ(または横,あるいは前)に静かに巣箱を移動させ,蓋を開けます.急に蜂が飛び出さないように,燻煙器で静かに煙をかけます.
右図では左側のブルーの巣箱に移し替えようとしています.この箱は消毒済みで,場所も,最終的にこの蜂群を飼う場所として選んだことろです.

巣箱の消毒についてはこちらを参考にして下さい.

作業時の巣箱の配置を前方から見てみました.手前に新しくミツバチを入れる巣箱,後ろが届いた蜂群です.蜂量にもよりますが,通常,送られてくるミツバチはすぐに巣板や巣礎を足すことができる状態のものが多いです.この図でも,手前の巣箱は,すでに分割板2枚と巣板2枚が入った状態で用意されています.

巣板は,輸送中に揺れて動いたりしないように,釘で留めてありますので,釘抜きを用いて釘を外します.釘は斜めに入れてあることが多いので,抜くときも向きには注意が必要です.通常,上桟から巣箱に通るように,つまり内側から外側に向かって釘を打ち込みますので,この図のように支点を内側にして抜くと,上桟の木部を傷めることがありません.

なお,釘は蓋,換気窓にも打ち込んであります.

輸送中の揺れによって,巣板がぶつかり合ったり,間にいる蜂がつぶれたりしないように,巣板に白く3角形に見える「コマ」と呼ばれるスペーサーがついています(これはプラスチック製ですが,木製の場合もあります).
飼育方法によっては,コマをつけたままでもかまいませんが,ミツバチにとって必要な巣板間隔(ビー・スペースといいます)よりは広くなってしまうので,取り外して飼うこともできます.ただ,このタイミングではなく,一度巣箱の交換作業を終えて,ミツバチが落ち着いてから行う方がよいでしょう.
巣板の底にはクッション代わりに,新聞紙を丸めたものや,右図のような稲ワラの束が敷いてあります.巣箱の蓋で下に押し下げ,このクッションで上に押し上げることで,輸送中の巣板の動きを抑制しています.送られてきた巣箱でそのまま飼う場合は,このワラは必ず外さなければなりません.箱を取り替える場合には,最後まで入れたままでかまいません.
巣板を移すときには,できるだけミツバチを落とさないように静かに作業をします.巣板を抜き出す際には,少し持ち上げてから,片手(右図では右手)を少し自分の側に引いて,少し斜めにしてから,左右に余裕を持たせた状態で,引き抜くように持ち上げます.そうすることで巣板の両端にいるミツバチが巣箱にすれたりして傷むのを防止できます.特に巣枠の両端部にムダ巣ができている場合には,巣箱の桟の部分にムダ巣がひっかかるので,注意が必要です.

抜き取った巣板は順次,新しい箱に入れていきます.入れるときも,斜めに入れます(この図では左手を前方に,右手を後方に下げて斜めにしています).なお,本来,この作業中に王台や女王蜂が確認できるのが望ましいですが,慣れていなくて時間がかかる場合は,とりあえず箱の交換作業を優先します.

女王蜂の確認などは通常の内検作業でも必要です.内検作業についてはこちらをご参考下さい(近日公開).

巣箱の中に残ったミツバチは,巣門が閉じられたままの箱の中で,前後左右に何度か大きく揺らして,一方向に集めます.這い回るものがいなくなるまで,煙を少量かけながら,大きく揺らすと効果的です.うまくできない場合は,巣門の前にふるい落としても大丈夫です.
ミツバチが底板にとどまっていられないうちに箱を返して蜂を巣板の上に落とします.巣板と巣板の間からミツバチが中に入っていきます.このときも静かに煙をかけて追います.
両側に分割板が一枚ずつ入っています.これは巣板と巣箱の壁をミツバチが接続してしまうのを防ぐためです届いたミツバチと巣板をすべて入れ終わったら,巣板を必ずどちかに寄せ,分割板も寄せておきます.この図では,届いたミツバチに入っていた5枚の巣板を,あらかじめ用意しておいた巣板2枚,分割板2枚で挟んだという状態になっています.

巣箱の蓋についていたミツバチは,作業の間に巣門から歩いて入れるよう,蓋を巣門の前に置いておきます.作業の終了時点までにはほとんどの蜂が入っています.

あとは蓋をして,巣箱への導入は終わりです.

セイヨウミツバチの場合は,こうした作業による「逃去」はまず考えられません.ただ,できるだけ時間をかけず,なおかつやさしく扱うと,蜂が荒れず,刺針も避けられます.


この先は,蜂量の増加に応じて,巣礎や巣板を加えます.

巣礎枠は自分で張ることもできますが,作製済みのものを購入することも可能です.蜂群に入れて,1〜3日で巣板として完成します(それ以上係るときは,時期が不適当だったということです).右図は,巣礎枠と,一日経った状態を示していますが,少し時間がかかりすぎているようです.

巣板が増えてきたら,早めに継ぎ箱を足して二段にします.このとき隔王板を用いて,下段は女王蜂をおいて育児圏とし,上段を貯蜜圏として利用します.なお,上下段の巣板枚数はできるだけ等しくします(合計が奇数の時は下を1枚多くします).
内検作業は,春は毎週行います.新しい王台ができていた場合,女王蜂の交換計画に沿って,残すか除去するかを決めます.それ以外の季節では,10日に1回程度の内検で充分です.冬は,基本的には内検を行いません.ただ,越冬明けに蜂群を失うケースが多いので,2月後半頃から,暖かい日の午前中を選んで,貯蜜量などを点検する必要があります.