コーネルフォト日記−10(5月27日)

本格的に実験が始まりました.ミツバチの行動観察では観察巣箱を用います.その中に入れるミツバチは外観が似ている(多少の体色の違いなどはありますが)し,数千匹単位ですから,それぞれを区別できません.そこでマークを付けります.ミツバチの研究では,日齢のわかるマークと個体の識別ができるマークの2種類が多用されています.通常,羽化したての時にマークを付けます.今日はマーキングについて書いてみました.
 

今回の実験では,ほぼ3日おきにマークを付けた蜂を入れていますので,結構カラフルなミツバチになってきました.

 

ミツバチは日齢分業といって,日が経つのに連れて担当する仕事を替えます.そこで,羽化した日ごとに色を付けて,ある仕事が,どの日齢の時に行われるかを調べることができます.左は巣作りをする14日齢の働き蜂.

背番号は個体を識別用です.5月21日に羽化した赤の43番は,25日は朝から扇風というような「職歴」を作ることができます.
 

赤の21番は頭を掻いていますね.何か失敗したわけではなく,体の汚れをとっているのです.手に負えなくなると仲間を呼んで,背中を掻いてもらいます.グルーミングといいますが,仲間を呼ぶ特殊なダンスを踊り,仲間が来るとさっと翅を開いて,毛づくろいがしやすいような態勢をとります.日齢にはあまり関係なく見られる行動です.
 
「ローヤルコート」と呼ばれる女王蜂を取り囲む行動はよく見られる特徴的な行動です.女王蜂の頭部に近いものは,ローヤルゼリーを出すものが多いのですが,腹部を舐めるものにはさまざまな日齢のものがいます.舐めとられた女王物質(フェロモン)は働き蜂から働き蜂へ巣の中で徐々に拡散していきます.
通常,15匹くらいの働き蜂が,産卵の中休みに入った女王蜂のまわりに集まってきます.女王蜂は目の前にいる働き蜂にローヤルゼリーをねだります.
この日は隣接する観察巣箱から迷い込んだ蜂に対する猛烈な排除攻撃が展開されました.少し落ち着いた頃に,女王蜂のまわりに働き蜂が密集してきました.攻撃に参加していた少し日齢のいった蜂が多いようでした.
 
色マークではコーネル大ではシェラックを使うのは紹介しました(No.7参照)が,圧倒的に簡便で,発色もよく,長持ちするので,玉川大学ではかなり以前からペイントマーカーをよく使っています.日本の文房具に勝るものなしの,代表例かも知れません.改良されていっそう使いやすくなりましたが,ときどきインクが出過ぎて,レッズのサポーターのようになってしまうこともありますが...
 

背番号は,もともと女王蜂に年号ごとの識別をして管理するためのものです.直径は2mmほどで,専用の糊でつけるのですが,巣箱に入れてから,糊を気にする仲間にしつこくチェックを受けることもあります.腹部に色がついていますが,これは巣房に潜っているのがわかるように,意図的につけています.
 

女王蜂の進行方向に信号三色の働き蜂が...さてこの後女王蜂はどっちに向かったでしょう?
実験とは関係なくても,思いがけずユーモラスなミツバチの行動を見ると長時間の観察も楽しくなりますね.

 

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