複数の蜂群をまとめる〜新聞紙合同
巣仲間認識という能力があるため,通常,自分の巣以外の蜂に対しては厳しい態度をとるミツバチですが,養蜂の作業上,弱群を救済したり,女王蜂を失ったとき,越冬のための準備などで,「合同」という作業をして,二つの群をひとつにすることがよく行われます.確かにそのまま合わせただけでは,争いが起こり,多数の死者を出してしまいますが,実に簡単な方法で,合同することができます.最も簡単な方法のひとつがここで紹介する「新聞紙合同」です.その生物学的な説明はまだなされていませんが,新聞紙を囓ることで,合わせられた相手の蜂に対する敵意が失われてしまうのでしょうか.いずれにしても養蜂作業上も,新聞紙1枚と2〜3日という時間だけでできる簡単で比較的失敗のない作業となっています.

まずは合同したい蜂群(合同先)を用意します.今回は手前の蜂群(合同先)に,向こう側の蜂群(合同元)を合同します.向こう側の蜂群の女王蜂は取り除いてあります(その場で取り除いても問題はありませんが,合同を始めるのはミツバチが巣に戻った夕方近くになることが多いので,その日のお昼頃までに取り除いておくと,探している間の時間のロスや,その間に蜂が騒いだりすることがなく,やりやすくなります).実際にはあまり利用されていない巣板も取り除いてしまうなど,整理しておくと楽ですが,後述するように,巣板は合同完了後,再度,整理が必要ですので,とりあえずはそのままでも大丈夫です.

女王蜂がいる側が下でなければならないということはありません.合同後ある程度外勤蜂が元の場所に戻ることもあり,これによる蜂の目減りを避けるためには,外勤蜂が多い方を下にする(つまり強い蜂群の場所を動かさない)と,作業上も楽です.もちろん両方の蜂群を新しい場所に動かすことになっても構いません.その場合,若干の蜂量の目減りはあります.
合同の最初の作業は,蓋を取って,新聞紙を置くだけです.一般的なサイズの巣箱であれば,新聞紙は半面でもよいのですが,慣れるまでは両面見開きのサイズで行う方がやりやすく,間違いがないでしょう.
次いで,空の「継ぎ箱」を重ねます.継ぎ箱を重ねるときは,できるだけ中の新聞が平らに張りがよくなるように,逆に言えば折れたり,たるんだりしないように気をつけます.また継ぎ箱がきちんと下の箱にはまっているかどうかの確認も大切です.さらに巣門側(この図では左側)にはあまり新聞が大きく垂れ込まないようにして(つまり後側に多めに垂らす)置きます.これは雨などが降った場合,濡れた新聞で巣門が塞がったりしないためです(仮にそうなっても大きな問題ではありませんが).
継ぎ箱を置いたところを上から見てみました.この程度には新聞が張っている方がよいです.この新聞に,ハイブツールを使って「ひっかき傷」をつけます.決して破ってはいけません.ツールの重さだけを使って紙をひっかきます.また巣板に平行にツールを乗せると,大きな裂け目を作ってしまいますので,必ず対角線方向に傷をつけます.これが合同作業の唯一のコツといえばコツです.万が一破ってしまったら,面倒くさがらずにやり直します.
右はひっかき傷のアップです.少し穴があいているように見えますが,ミツバチの大きさからすればかなり小さいものです.全面についている必要はなく,適当に数本の傷があれば充分です.またできるだけ巣の中心部につけた方がよいでしょう.
新聞紙の傷付けが終わったら,隣の箱から巣板を移動します.あらかじめ,巣板数を減らしておいた方がよいのですが,どうせ後で巣板を上下段合わせて整理するという場合は,とりあえずすべての巣板を入れても問題ありません.強群で2段の蜂群に弱群を合同する際は,受け入れ群の上段から蜂を追い払い,それから上下段を仕切るように新聞紙を置いて,弱群から蜂を足します.巣板についたままでも,蜂だけを払い込んで大丈夫です.ただ,空の継ぎ箱に蜂だけを振り込むのは避けた方がよいでしょう
合同が成功すると,巣門の前に新聞のくずが出てきます.これが合同完了のサインですから,必ずくずを確認しましょう.完了までは通常2日程度ですが,余裕のあるときは中二日待ちます.蓋を開けて,多数の蜂が飛び出してくるようなときは,まだ合同がうまくいっていない証拠です.弱群であれば新聞紙にミツバチが通過できる程度の穴が数個あるかといった程度で合同が完了していることもありますが,強群では短時間のうちに新聞紙はきれいになくなってしまいます.
合同終了後は,上下段に蜂児圏が分かれていたり,巣板の配置が乱れていることが多いので,整理し直します.蜜が少しだけ入っているというような巣板は取り除き,全体として巣板を減らし,蜂の密度を高めることが大切です.特に弱群を合同した場合は,加えた巣板のほとんどを取り除く覚悟でやる方がよい結果になります.蜜巣板を取り出した場合は,その蜜を採らせるか,分離器で絞って給餌器で給餌するなどすることが可能です.
なお,合同の際には,女王蜂をひとつだけ残すことになるわけですが,できるだけ強群のもので新しいものを選びます.蜂児圏を見て産卵状況のよいものを選んでおくのが無難でしょう.
 
これまで学生時代から合わせると,計20年以上にわたって,年間,ほぼ10回程度の合同をしてきましたが,新聞紙合同で過去にうまくいかなかったことは2例だけあります(ざっと200分の一ですが,いずれも作業者側の不注意によるものです).
失敗例1:上段が巣板2枚程度の弱群で,新聞に傷を付けるのを忘れてしまったため,3日経っても上の蜂が下に降りることができず,上の段で百匹単位での死亡が見られた(晩秋期).失敗例2:新聞紙を半面で使ったら横に隙間ができていて,上下段の蜂が早く交わりすぎて争いになり,巣門前に数百匹の死亡が見られた(夏).
 
また合同自体は成功しても,その意味があったかどうかは判断の難しいところです.小群同士を合同することにはあまり意味がありません.弱群2群と強群1群では,例えば越冬の成功は強群の方が有利なことが多くなりますし,給餌する餌の量なども違ってきます.特に越冬の場合には,小群を強群に合同して,強群を補充する形にする方がよいでしょう.鉄則は弱群を救うのではなく,強群を作ることです.0.4+0.4=0.8のように見えますが,四捨五入すると0+0=0です.1.5+0.5=2ですが,同様に考えると2+1=3という感覚です.弱群同士を合同してから,さらに強群に合同したり,同時に3群をひとつにまとめることもできます.
弱群同士で継ぎ箱を利用したくないとき,また3群以上をひとつにまとめるときは,新聞紙合同ではなく,日本酒を霧吹きで蜂に吹きかけて合同する「日本酒合同」もできます.この場合は,巣板上にいる蜂に日本酒を吹きかけ,蜂群Aと蜂群Bの巣板を蜂がついたまま交互に巣箱に収めていきます.巣板が入りきらない場合は,蜂だけを振るって入れても問題はありません.どの程度かけるとよいかは経験によるものですが,こちらも簡便で失敗しにくい方法です.