幕府って何のこと・・・執権(しっけん)ってなあに?

鎌倉時代の人がいうには・・・

私たちは授業や日常の言葉として「幕府」とか「執権」という言葉を使っていますが,鎌倉時代の人は私たちが使っているような意味では使っていませんでした.

「吾妻鏡」(あずまかがみ)は鎌倉幕府(私たちがそう呼んでいる)の出来ごとが書いてある第1級の資料ですが,幕府ということばは84回出てきます.執権(しっけん)はたったの18回です.約150年間の出来ごとを書いた50巻の書物の中に使われている言葉としてはあまりにも少ないですね.

幕府という言葉はこのようなときに使われていました.

・小町大路から発生した火災で幕府が燃えた.

・火事で燃えた幕府を造りなおした.

・和歌の会が幕府で行われた.

・幕府に御家人があいさつにやってきた. 

・和田義盛の軍勢が幕府南門を囲んだ.

・幕府の北面の庭に和歌をそえた菊を植えた.

これで分かるように,幕府とは政治の仕組みではなくて建物,あるいはその建物がある区域のことをさしていました・・鎌倉時代に「幕府」といえばそれは将軍の住む館(やかた)のことなのです.将軍とはもともと近衛の大将(このえのたいしょう=天皇を守る軍隊の大将)のことですから右近衛大将(うこのえのたいしょう)となった1190年から頼朝の館は幕府ということになります.吾妻鏡には頼朝が右近衛大将となる前年の若宮の館を「若宮幕府」と書いてありますが,1190年前に人々が頼朝の館を幕府と呼んでいたかどうかは定かではありません.吾妻鏡の作者は鎌倉時代後期の人ですから,あとからそう呼んだ可能性があります.

頼朝は右近衛大将を3日間でやめて,1192年に征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)となるまで「前右近衛大将」(さきのうこのえのたいしょう)という肩書きをつかっていました.この間もそれ以後も将軍の住む館のことを「幕府」と呼びました.(頼朝は3年間で征夷大将軍をやめましたが,それ以後も館は幕府と呼ばれていました)

「将軍の住む館が幕府」という使われかたは江戸時代の後期まで続きます.ということはそれ以前の人々は鎌倉幕府や室町幕府という呼びかたはしていなかったということになります.(室町時代には将軍の館を御所(ごしょ)とよんでいました)

武士政権の仕組みを幕府と呼ぶようになるのはの江戸時代も終わりごろになってからのことなのです.ちなみに江戸時代の大名の領地と仕組みのこと領を表す言葉「藩」(はん=)も明治時代になってから一般に使われはじめたことばです.

ゲンボー先生がどうしてこのことにこだわるのかと言えば,私たちは「幕府」という言葉のイメージから,関東の武士が頼朝と力を合わせて作った政治の仕組みを,江戸幕府と同じように「全国を支配した武士の組織」というイメージで見てしまいがちになるからなのです.鎌倉時代のことを少し勉強すれば,実際にはそうでなかったことが分かると思います.

○○幕府と言う呼び名は,けっきょく後世(こうせい=あとの時代)の人が「あの時代の武士の政治の仕組みを幕府と呼ぼう」ということでつけたものなのです.このことを知っているのとそうでないのとでは勉強をしていく上で大きくちがってきます.

 

同じように「執権」という言葉も一般には使われていませんでした.吾妻鏡では北条時政を「遠州」(遠州=えんしゅう=遠江=静岡県=時政は遠江守だった),北条義時を「相州」(相州=そうしゅう=神奈川県=義時は相模守),北条泰時を「武州」(武州=ぶしゅう=東京都,埼玉県,神奈川県東部=泰時は武蔵守だった)と書いています.代々の執権も実際には「遠州どの」とか「相州どの」と呼ばれていました.政所の別当になった時政も,義時も書類には「遠江守」とか「相模守」としか署名(しょめい=サイン)していません.

執権とは政治の実務を行う者という意味として使われた言葉で,はじめの頃は政所の別当のことをさしていました.それが地位を表す言葉として使われるようになるのは北条時頼のころからでしたが(1252年ごろ),日常の言葉としては使われていませんでした.

私たちが昔のことを勉強する上で「幕府」とか「執権」とか「将軍」という用語を使うことはとても便利なことですし,そうでなければ不便になりますね.ですから教科書でも本でもホームページでもそうした言葉(用語)を用いることは一向に差し支えありません.しかし,実際に当時の人がそう言っていたのかということになると,ちょっと違うこともあるのです.

勉強する上でこのような用語を使うことは必要ですが,こうしたことを知らないとその用語のイメージが先にあって,本質(ほんしつ=ほんとうのこと)を見誤ることがあります.「鎌倉幕府」という言葉はそのよい例です.

 


トピックスに戻る

ホームに戻る

注意 目次や項目のフレームが表示されていない人は,ここをクリックしてください.