情報学習における社会科と総合的学習の関係

 

玉川学園全人教育研究所

研究員 多賀譲治

・はじめに

 「鎌倉時代の甲冑がきらびやかなのはなぜ?」「人々は何を食べていたの?」「頼朝の墓に島津氏の家紋がついているのはなぜ?」「武士の日課を知りたいなあ」「どんな服を着ていたの?」「なぜ、戦で名乗りあうの?」「刀の形が江戸時代と違うのはどうして?」「市には、どんな物が売られていたの?」「昔の子は、どんな遊びをしていたの?」・・・これらはインターネット上で行われている「鎌倉時代の学習ページ」によせられた子供たちの疑問である。普通の学習に満ち足りない「なぜ?」「もっと知りたい」という子供たちの気持ちの表れでもある。

コンピュータの普及は学校教育の分野でも、「情報を得」「情報を整理」「情報を発信」するための便利な機械としての認識が深まり、学習の方法や形態に大きな変革をもたらそうとしている。

こうした状況にあって玉川学園全人教育研究所では、学内はもとより学校を超えて子供達の素朴な疑問を解消し、次の学習へステップアップしていく手助けをする、新しい学習形態の構築を目指した。

本稿では「社会科における総合的学習」として、ネットワーク上で行われている「鎌倉時代の学習」を紹介したい。

・ 互いに学び合う−コラボレーション学習−

一人より二人、二人より学級全体、学級全体より学年全体、学年全体より学校を超えた「学び合い」の学習展開が可能であるなら、「知ること」はより広がり「考えること」はより深まりを持つ。

同じテーマを多様な観点で調べてみること。多様な方法で表現すること。これを可能にしたのがインターネットであり、コラボレーション学習である。コラボレーションには「共同」「協力」という意味の他、「共に創る」という意味もある。実験中の学習では子供達をはじめ、父母や専門家も含めた多彩な人々が参加している。

学習はホームページ上で行われ、「御家人の生活ページ」「年表ページ」「質問コーナー」「子供の学習ページ」など、いくつかの項目に分けられている。 

子供達の疑問や質問は学校の内外を問わずE-Mailを通して送られてくる。こうした疑問、あるいはアドバイスや学習成果はホームページ上に掲載され、地域や時間を超えて互いに学び合うことが可能である。また、子供の学習成果がそのままデーターベースとして残り、新たに学習する者の参考になるところも特筆すべき点と思う。

子供達の疑問は多種多様で、学習の内容も様々である。東北、北陸、九州といった地域性に富んだものから、理科など他教科的な切り口を持ったものまで幅広い。

鹿児島養護学校の中学2年生は「玉川のホームページ」で勉強したことをホームページに発表し、さらに「鎌倉時代の鹿児島」を調べた。「島津氏は元来鎌倉の武士であり、頼朝によって鹿児島の守護に任命されたこと」「租税としては米や農産物以外に唐物税という、物品税があったこと」など、その地でなくては分からないことを調べあげている。

更に、養護学校での発表をリアルタイムにホームページに流した。デジタルカメラに収められた発表の様子はコメントと共に随時玉川学園に送られ、画像を次々にアップし、同時に参加した、福井県や神奈川県の生徒、それに「中国四国農政局」や父母等のコメントも載せた。彼(O君)の学習を核にして多くの人が学び合ったわけである。障害の程度によっては「同じ土俵の上で」「普通の学習」ができることを証明したと言えよう。後日、養護学校の先生から次のようなメッセージをいただいた。

「インターネットを活用し、生徒の学習への意欲や主体性を伸ばそうと始めた自由研究でしたが、最終的には夢のような「リアルタイム遠隔学習」へと発展しました。(中略)。そして、今回参加してくださった全国各地のみなさんからのコメントは、小さな教室でマンツーマンの授業を受けていたO君の学習活動を大きく広げることになりました。本当にありがとうございました。」

続けて、O君がインターネットを活用した資料収集から、プレゼンテーションソフトによるまとめの学習活動で、コンピュータに慣れ親しみ、長期にわたった学習にもかかわらず自主的・主体的な取り組みを続けることができたこと。障害にとらわれず、立場を越えたメールのやりとりを通して、学びあう人間関係を築くことが出来たこと。複数の指導者から助言を受けながら、学習の焦点化を図りより深い理解へと意欲を持って取り組めたことが述べられている。

このコメントに、私達が目指している学習のあり方が凝縮されている。コンピュータさえあれば 「いつでも」「どこでも」「だれでも」が学習可能である。今後はさらに、こうした学習を行うのに相応しい教材作りを目指していくことが私達の課題である。

・ マルチウエイ学習システム

インターネットの普及で、時と場所を超えて双方向(Two-Way)の学習が可能となったが、私達の学習では学校間を超えて、子供、父母、指導者が「くもの巣」のように結ばれているために「マルチウエイ(Multi-Way)学習システム」という名称を与えた。

好きな時に好きな場所で「質問」や「疑問」を送り、ホームページ上で発表し合うAnytime Anyplaceの学習と、リアルタイムに数地点を結んで学習するReal‐time Anyplaceの二形態がある。後者は主にフィールドに出る際にモバイルコンピューティング(コンピュータに携帯電話やPHSをつなげてネットワークに入ること)で学習を行う。フィールドに出た際には「その場」で知りたいこともあるためこの方法を取り入れた。環境学習などで外に出て活動する際には有効な手段となろう。

本年6月に玉川学園小学部の6年生と行った実験では、鎌倉に行く4つのグループがコンピュータとデジタルカメラを持ち、現地からのレポートや質問がホームページに送られてきた。それに対しての先生や父母、あるいは他校からのアドバイスも同時に入ってきた。

「頼朝の墓に島津氏の家紋がついているのはなぜ?」とか「滑川はなぜ滑川というの?」「切り通しに丸や四角の石が積んであるのはなぜですか?」などといった、疑問に対して、鹿児島の生徒が頼朝と島津氏の関係について答え、鎌倉在住の人が川の名前の由来を説明し、専門家から五輪塔の説明を受けることが出来た。知り得た情報は学校に持ち帰り「なぜ頼朝が鎌倉に幕府を開いたのか」を考える材料となった。

・ 指導は複数で

本学習システムのもう一つの特色は、複数で指導にあたるという点である。

指導者は学校の枠組みを離れて子供達に対応し、時によって専門家も加わり、より具体的な生の情報やアドバイスを行う。また、内容によっては教科の枠をこえての支援や協力もある。一人だけの教師からは得られない多角的な切り口、あるいは多様な指導を受けることができるという点で子供達にとって大きな利益となろう。

私達の例では、歴史や地理の専門家(教員)をはじめ、農家や地域の歴史家などが指導者として参加している。指導者間はネットワークで結ばれ、疑問に対して最も適切な人がアドバイスするよう心掛けている。ただし、子供から見える先生はバーチャルな先生ただ一人で、玉川学園では学校のマスコットバードである「ちょうげんぼう」を元にネーミングされたゲンボー先生がその任にあたっている。

このように私達が目指している新しい学習は、多種多様な人々の参加によって成り立っており、年齢や所属、教科を問わない。これは元々社会科が有している「学際的」で「総合的」な教科の特色に合致しているものである。

これまで困難だった地域や時間を超えた学習が可能になたのも、コンピュータというコミュニケーションの道具があればこそである。「覚える学習」から「考える学習」への脱皮をはかろうとしている今、コンピュータを暗記マシーンや単なるドリルとして使うのではなく、ネットワークを有効に活用した学習の道具として利用したいと思う。そのために学校や教科といった従来の枠組みを離れて、教材の開発や互いのつながりを広げていくべきである。コンピュータは単なる道具であるが、扱い方によって子供達の可能性を大きく広げる道具なのである。