ゲスト・スピーカー
安田先生(国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ)

「総合演習」の授業で、元玉川学園中学部&高等部で理科教諭で、現在、東京学芸大学大学院教育学 研究科理科教育専攻修士課程に在籍されながら、科学イベントの企画運営団体Science Air「おしゃべりサイエンス」事務局を主宰されている安田和宏先生をお招きしました。Science Air「おしゃべりサイエンス」とは、女性科学者・女性研究者の育成を目的に、女子高校生や女子大学生を対象に、毎回、女性研究者や女性科学者をゲストに 迎えて、研究の話や進路について、楽しくおしゃべりをするイベントです。実は、私も「おしゃべりサイエンス」のゲスト・ス ピーカーとして3月にお招きいただき、女子高校生・女子大学生と楽しくおしゃべりをさせていただきました。そんな安田先生をお招きし、総合的な学習で取り 組むような環境や科学がかかわる授業についてお話をしていただきました。お話くださいながら、目の前で化学変化を起こし、学生達に子供達の驚きや発見に結 びつける仕組みなどについても実演しながらお話くださいました。当日は、東京学芸大学の大学生・大学院生3名も参加し、同じように教育を志している学生同 士、大学 を超えて、互いに学ぶ機会を持つことができました

以下、当日の内容は、安田先生の資料を添付いたします。

第1部:

■本講のメニュー
1.環境教育に用いられるトピックスから → 「総合的な学習の時間」において「環境」や「科学」の要素を取り入れる際に留意すべきこと
2.知っている ≠ 教えることができる → 学習者としての理解の仕方と、教育者としてのそれは異なる
3.「分かりやすい」の弊害 → 「レベルを落としすぎた学習内容を提示する恐れ」や
  「学習者の後の学究活動に妨げが生じるような誤認を与える恐れ」があることを認識する

■提示した教材
【動画資料】
  (1) 氷山が崩れる → 冷凍庫の氷と何が違う?
  (2) スペースシャトルの打ち上げ → あの煙は二酸化炭素か?

【演示実験】
  ・「時計反応」 → 私たちの世界には「速い反応」と「遅い反応」がある

【最近の話題から】
  ・山崎直子氏(宇宙飛行士)、スペースシャトルで宇宙へ、ISS(国際宇宙ステーション)。
    → 宇宙空間における「無重力」状態を分かりやすく説明できるか

【スキーマ】
  ・人は、外部からの情報をどのように認識しているのか
  ・分かりやすい「アイコン」 … 文化・歴史の背景に頼る? 周辺情報に引きずられる?

■追加の解説
(1) 「総合的な学習の時間」において「環境」や「科学」の要素を取り入れる際に留意すべきこと
  教師側が……
  → 学習者の学齢にあった学びがあるとはいえ、「興味関心を持つ」「自らの問題として考えられるようになる」様のねらい設定は、(実務上)不十分で す。

(2) 「環境教育=環境問題解決のための活動」とは言い切れない
      仮に、”良い”環境教育を受けたとしても、現在叫ばれている「環境問題」を解決させることはできませ
        ん。新たな科学の発見、イノベーション(技術革新)のみでは不十分で、新たな国際的・政治的なフレーム
        再構築も必要なはずです。

     学校教育においては、えてして道徳的な”指導”に陥りがちで、学習者が「よく分かった!」と感じさせる
       ことが、後の専門的な学究(これは自然科学分野に限りません)の妨げになることがあります。この危うさ
       を教師は常に意識しておく必要があります。すなわち、私たちの社会は”いいとこどり”はできません。「一
       つの条件・要件だけを取り上げて検討する」ことは困難なのです。

  ・学習素材に関する、科学的な根拠を認識しているか
  ・「目標」および「結論」を”明確”にしているか
  ・道徳的な要素を意識的に切り分けられるか
  ・学習者のどのような変容を期待するか、を事前に設定できるか
  ・学習者の学習過程の自由度をあらかじめ設計できるか


第2部:

(3) 「ゆとり教育に関する”批判”」と「総合的な学習の時間の”実施”」との関係を考えてみる
  各教科では、教科の内容や指導法が学習指導要領によって枠づけられている現状があります。そのため、
  各教科のカリキュラム編制を大幅に変更するのは困難です。その点、「総合的な学習の時間」は、新しい枠
  組みであり、型が明確に示されていない(むしろ学校や担当する教師に任されている)ため、様々な試みが
  行えるのです。

 「ゆとり教育」に対しては、学習項目や授業時間数が大幅に削減されたことで、子どもの学力低下を招い
    た、という批判もありますが、「総合的な学習の時間における教育活動は有機的に機能したか」という視
  座に立つ必要性こそ、強調されるべきなのかもしれません。


■参考
(1) 実験授業における形式(理科の教科指導において)
   → (0. 題目) 1. 目的 2. 準備 3. 方法 4. 結果 5. 結論 6. 考察

(2) アーレントの言葉
 「教育は、われわれが世界を愛して世界への責任を引き受けるかどうか、さらに、更新なしには、つまり新
  しく若いものが到来せぬかぎり、破滅を運命づけられている世界を救うかどうかが決まる分岐点である」
  ハンナ・アーレント『過去と未来の間』疋田ら訳、みすず書房、1994年(原著は1977年)。

■読書案内
・アイリック・ニュート、猪苗代英徳(訳)『世界のたね 真理を追い求める科学の物語』NHK出版、1999年。
・鷲田清一『わかりやすいはわかりにくい? 臨床哲学講座』ちくま新書、2010年。
・小玉重夫『シティズンシップの教育思想』白澤社、2008年。

「おしゃべりサイエンス」公式ブログ  http://science.air-nifty.com/oshaberi/

安田先生、ありがとうございました。