Guest Speaker
伊藤光子先生

2014年の「異文化理解と教育」と「大谷ゼミ」では、元外務省 国際機関人事センター所長の伊藤光子先生をお招きしました。伊藤先生は、OECD日本政府代表部で全体を統括する総務部にいらした方で、これまでに人権難 民課、国際機関人事センター所長、海外安全相談センター室長を歴任され、最後は在インドネシア大使館、ニュージーランドのオークランド総領事館を経て、 2014年3月に帰 国されました。国際機関人事センター所長として、国際機関で活躍したい若手日本人を支援するJPO派遣制度などを通じグローバル人材育成をされてきまし た。海 外で生活された帰国生であり、また外交官として、グローバル人材の素晴らしいモデルとして活躍されてきた伊藤先生のお話から学ぶことはたくさんあります。 以下、当日のお話を簡単にまとめました。また、伊藤先生の国際機関人事センター所長としてのインタビュー記事も参考に読んでください。また、国際教育センター主催の講演会についての記事もあります。

講話「8カ国で生活して見えてきた異文化理解」

(1) イスラム教国 3カ国
イラン
父が外交官だったので、 小学1年生の時に父の赴任先であるイランに行きました。イランで子ども時代を過ごし、学校もイランの現地校に通いました。当時のイランは、革命の前、 シャー(王様)の時代でした。日 本文化と大きく異なるイランで、日常生活の中に宗教が根付いていることを実感しました。ルールとして、左手は不浄の手として握手したり、ものを食べ てはいけないこと、1日5回の祈り、女人禁制の場所が色々とあることを日常生活の中で経験し、「違う文化がある」「違いを尊重する」ということを学びまし た。

マ レーシア
マレーシアは、外交官として 最初の赴任地でした。多民族国家のマレーシアには、中国系3割、インド系1割、イスラム教のマレー系5割、その他で構成され、多民族・多文化が共存してい る社 会です。例えば、パー ティをするにしても、イスラム教の人は豚肉はダメ、ヒンドゥー教の人は牛はダメ。このように、パーティ1つするにして も、食にかなり気を遣わないといけません。日常生活において、お互いの文化・宗教をRespectするということが非常に大切です。

イ ンドネシア
インドネシアは、ASEANの10カ国の中で中心的な役割をしています。ASEAN事務局がジャカルタにあるので、インドネシア大使館でASEAN担当 として働きました。インドネシアは、世界一イスラム教人口が多い国で、ラマダンという断食の時期があります。日の出から日の入りまで断食するため、ラマダ ンの時 期は事故が多いです。

(2) 英語圏の国 3カ国
アメリカ
父がシカゴの総領事館に赴任したことで、アメリカの教育も受けました。アメリカで感じたことは、「全てが自由 - 自分で選択する」ということです。「独立心を育てる」ことを大切にしているので、自分がdecision makingすることを色々な場面で求められます。また、学校教育の内容も実践的(practical)で、車の運転免許を取るための授業もありました。 また、当時の家庭科の授業では、今のファッションの様子を見ると当てはまらなくなりますが、「ストライプの服に 花柄は合わない」「補色どうしの色合わせは避けた方がいい」など、自分の洋服を選択する上で役立つような洋服選びのルールなども教えていました。

英国
英国ロンドン大学の東洋アフリカ研究学院(University of London, School of Oriental and African Studies)で学びました。ロンドンはとても気に入ったところの1つです。歴史も古いし、色々な部分で日本の人と似ている部分があって面白いと思いま す。

ニュージーラン ド
ニュージーランドは、日本と同じように、水を水道水から飲める数少ない国の1つです。親日的で、日本語学習者がとても多いです。約14000人くらいの日 本人永住者がいます。ニュージーランドを気に入って、戻ってくる人も多いそうです。英語圏の国ではありますが、アメリカや英国の英語とも異なる英語です。

(3) その他の国 2カ国
フラン ス
パリのOECD代表部に配属となり、パリでも生活しました。外務省の中でもパリへの赴任は人気があるので羨ましがられましたが、パリの冬はとにかく寒かっ たです。マレーシアのように暖かい国の後に赴任したので、パリの石畳から体の芯にこたえる寒さが大変だったことを記憶しています。特にパリということも あったからかもしれませんが、パリの人達は新しい人が来ると距離を持って様子を見るところがあります。マレーシアでは、新しく赴任すると、色々な人が声を かけてくれましたが、パリでは距離をもって人と接するところがあるように感じました。

タ ンザニア
20歳の頃、タンザニアにも行きました。タンザニアは、LLDC (the Least among Less Developed Countries)の1つなので、日本のODA (Official Development Assistance)も集中的に入っていて、当時でも100人近くの海外青年協力隊がいました。色々な物がないところでしたので、バターを供給されたア メリカ大 使 館の友人からバターを分けてもらってました。タンザニアの思い出の1つに、アフリカ最高峰のキリマンジャロに登ったことがあります。「キリマンジャロに 登ってみたい!」と思い、挑戦し、登りました。一緒に登山していた体格の良いオランダ人やドイツ人達は途中で高山病でダウンし、お弁当も食べれなく なってしまいましたが、そのお弁当ももらって登頂しました。なんと、日本人女性で7番目に登ったそうです。

(4) 異文化理解する上で大切なこと:
子どもの頃から色々な国で生活する経験をし、また外交官として1カ所に3-4年の期間、色々な国に行き、国際機関でもESCAP(国 連アジア太平洋経済社会委員会)、UNDP(国連開発計画)、UNICEF 女性の地位委員会など、色々な経験を積んできました。そのような経験を通して、異文化理解する上で大切なことは3点あると思っています。1つは、 「違 いを認める/尊重する」ということです。違いをおもしろがる自由な精神とでもいうものでしょうか。2つめは、「百聞は一見にしかず」で、若いうちに異文化 を体験することです。日本から見えるものと異なるものが見えてきます。3つめは、「日本人であること」を自覚し、日本人としての個性を理解することです。 日本文化を教養として身につけるといいです。そうすることで、外国の方からもRespectされます。具体的には、日本特有のものを経験してみるといいと 思います。

質疑応答の様子
学生から「僕はカンボジアの学校で日本語を教えたことをきっかけに、学生のうちに色々な世界を見たいと思っています。この夏もエジプトに行く予定ですが、 どんなことに気をつけて行くべきでしょうか?」「色々な国での生活、多様な人々と出逢われていますが、もう一度行くのであれば、どこに行かれたいです か?」など、自由な質問がいくつかあがりました。


伊藤先生、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。