自由の女神は女?男?

 

高等部生からの質問

自由の女神さんにご挨拶してきたわけですが、あの緑の像、英語名はStatue of liberty. どうして女神と断定できるんでしょう? 姿をみても、男性ではないとは言いきれない・・・。フランスから贈られたときにはしっかりと女神であるという言い置きがあったんでしょうか? 中学校の教科書にもなにかこの像に対する文章がありましたけど、そんな細かいことは書いてなかったですよね? どなたかご存知の方いらしゃったら教えてください。

 

大谷より

とてもいい質問だと思いました。さりげないけど、案がい深いところへ導かれていく質問だと思います。フランスは、フランス革命によって、それまでの王侯貴族による支配に対して「自由・博愛・平等」を建て前に戦いました。「自由の女神」は、そんなフランス革命に影響をうけ、イギリスの植民地から独立したアメリカに贈られました。「なぜ女神か?」というと、フランスの有名な画家ドラクロアの絵画の中にもフランス革命を勝利に導いた「勝利の女神」が描かれていたり、うんと昔ではジャンヌ・ダルクが勝利の女神(結局魔女裁判で諸処刑されてしまいますが)として奉られたように、フランスでは「勝利」にまつわる神は「勝利の女神」と捉えているのかなと思いました。と、このように書いていましたら、玉川大学文学部国際言語文化学科でフランス語、言語学関係の科目を担当されている渡邊先生が、わざわざこのサイトを見てコメントを送ってくださいました。専門家のコメントなので、ぜひ以下のコメントを読んでください。私もとても勉強になりました。

 

渡邊先生より(玉川大学文学部国際言語文化学科でフランス語、言語学関係の科目を担当されています)

おっしゃるとおり、自由の女神の女性は、フランス語のliberte(eの上に ' がつきます)女性名詞であることに由来します。ドラクロワの『民衆をみちびく自由の女神』もまた、フランス語では La liberte guidant le peuple (liberteの"e"上に ' )ですから、同様に「女神」をあらわす要素はどこにもありません。「自由の女神」は、ほんとうは女神でもなんでもなくて(そもそも、単一神のキリスト教世界に「自由の"女神"」などがいては、たいへんなことですね)、「自由」そのものがかたちをとった、いわば化身として、liberte (eに')が女性名詞であることを介して、女性の姿が描かれたと考えられます。

このことは、さらに歴史をさかのぼることができます。ラテン語で、「真 veritas」、「善 bonitas」、「美 pulchritudo」などの抽象名詞はいずれも女性名詞であることから、女性のすがたをえがいてそれらを象徴することは、中世からの図像上の約束ごとでした。たとえば、ボッティチェッリの『春』の絵で、手をとりあっている3人の女性が、まさに「真」、「善」、「美」の化身であるといわれております。そうした意味で、玉川のエンブレムのまわりに書かれたラテン語で、なぜか「善」だけが bonum と中性名詞になっているのが、個人的には気になってしかたがありません。

渡邊先生のホームページ  http://www.ne.jp/asahi/watanabe/junya/

 

 

渡邊先生、本当にありがとうございます。高等部生からの鋭い質問をきっかけに、私も勉強になりました。