Undermining effect

 

アンダーマイニング効果について

私たちの研究チームから、アンダーマイニング効果の神経基盤についての論文

Kou Murayama, Madoka Matsumoto, Keise Izuma, & Kenji Matsumoto “Neural basis of the undermining effect of monetary reward on intrinsic motivation,” PNAS 107: 20911-20916, 2010

を米国科学アカデミー紀要に発表しました。このアンダーマイニング効果については、誤解を呼びやすいので、勉強の成果に報酬を与えるという例に即して、その本質を失わない程度に単純化した、補足説明をここに書いておくことにします。


まず、動機には2種類、報酬のためにやるという外発的動機と、課題そのものを楽しむ内発的動機とがあり、「やる気」はそれらを足したものだと考えて下さい。


報酬のためでなく勉強するとき、もともと内発的動機があったとすれば、


①無報酬→ 外発的動機0+内発的動機1


となり、やる気は0+1=1です。このような場合に、例えば「テストで100点をとったら1000円のご褒美をあげる」という報酬を約束して勉強させると、報酬のための外発的動機は加わりますが、もともとあった内発的動機が低下してしまい(アンダーマイニング効果)、


②報酬期待→ 外発的動機1+内発的動機0


となり、やる気は1+0=1です。つまり、報酬がある限り、やる気は失われません。


しかし、一旦、報酬を約束して報酬のための勉強をしてしまうと、もともとあった内発的動機1が0になってしまうので、次回以降、報酬が約束されないときには、


③無報酬→ 外発的動機0+内発的動機0


となり、やる気はもはや、0+0=0となってしまうわけです。

このように、②の報酬を前提とした過程を経てしまうと内発的動機が失われるので、もともとは自発的に勉強していたにもかかわらず、そうしなくなってしまいます。


一方、もともと勉強の内発的動機がない場合には、


①’無報酬→ 外発的動機0+内発的動機0


なので、やる気は0+0=0です。つまり、自発的には勉強しません。そこで、うまく成功したときの報酬を約束して、勉強させると、外発的動機が付け加わるので


②’報酬期待→ 外発的動機1+内発的動機0


となり、やる気は1+0=1となります。したがって、報酬が期待できる限り、勉強するわけです。

しかし、次回以降、再び報酬の約束がなくなると、もともと内発的動機がないので、


③’無報酬→ 外発的動機0+内発的動機0


つまり、やる気は0+0=0です。


まとめると、

もともと勉強の内発的動機がある場合は

A) 無報酬(やる気1)→報酬期待(やる気1)→無報酬(やる気0)

もともと勉強の内発的動機がない場合は

B) 無報酬(やる気0)→報酬期待(やる気1)→無報酬(やる気0)

ということです。


従来の脳科学研究では、外発的動機のみに基づいたB)しか扱われてこなかったけれども、

今回の論文では、自発的に楽しむことのできる面白い課題を導入することによって、A)を調べたわけです。そして、この外発的動機の存在が内発的動機を抑制してしまうプロセスに、皮質ー基底核評価システムが関与していることを明らかにしたというのが、今回の論文の意義となります。


もともと内発的動機がない場合に、どうしたらそれを高めることができるか、そしてそれを可能にする脳内メカニズムは?という問題を解くことが、脳科学が教育に貢献する上では非常に大事なわけですが、これについては今後の研究課題ということになりますので、乞うご期待です。