真社会性昆虫であるミツバチは、一匹の女王を中心に数千から数万の働き蜂(ワーカー)からなる高度に発達した社会(コロニー)を形成し、ワーカーが産卵以外のコロニー維持に必要な様々な労働を分業して分担しています。採餌行動を担うハチは、餌場と巣の位置を正確に記憶し、8の字ダンスとよばれる独特の抽象言語でその位置を他個体に伝達するなど、極めて高度な情報処理能力をもちます。
ここではミツバチが、記憶・学習能力、その加齢や社会経験に伴う発達、脳構造、記憶テンプレートの更新過程などについて、おもに行動解析の面から取り組みました。視点としては、1) 彼らは社会性に関連するどのような能力を持つかを明らかにし、2) その能力とシステムがどこまでヒトと共通性があるかを考察し、さらに、3) 基礎過程の解明から次の項で述べる遺伝子解析に適当な系を見いだすことです。研究課題は以下の項目に記すものですが、取り扱う生物現象によっては、材料としてミツバチ以外の社会性ハチ類も適宜活用しました。