高度に発達した脳をもち複雑な社会行動をとるミツバチは、農業上の重要な有益昆虫であるだけでなく、基礎生物学的にも魅力的な特徴を兼ね備えていることから、2006年にはショウジョウバエ、ハマダラカに次いで、昆虫としては3番目に全ゲノムが解読され、分子生物学の新しい研究対象として注目されています。
ミツバチのコロニー内では、羽化後まもない若い成虫が幼虫の世話などの巣内での労働に従事し、高度な情報処理が要求される採餌行動は、羽化後2週間ほど経過した個体が行います。この労働の切り換えに対応して、ミツバチの学習能力は羽化後の日が経つにつれて向上します。ところが、行動解析グループにより、羽化した若い成虫をコロニーから隔離して単独で飼育すると、学習能力の向上が見られなくなることが明らかにされました。また、隔離飼育したハチでは、一旦成立した記憶の保持率も顕著に低下します。ミツバチの脳機能が正常に発達し、それが維持されるためにはコロニー環境から受ける社会的刺激が重要であると解釈されます。
ミツバチ遺伝子解析グループは、ミツバチを「社会と脳」を研究するためのモデル動物化に必要な分子生物学的手法を開発し、社会刺激が脳の発達に及ぼす影響を分子レベルで明らかにすることを目指して以下の課題に取組みました。