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「太陽の子、トマトの秘密に迫る!―野生のトマトは貴重な遺伝資源の宝庫」

トマトは世界で最も多く生産されている野菜で、近頃ではイタリア料理人気も手伝ってわが国でも大変な人気者です。領域の温室には、世界中から集められた、たくさんの種類のトマトがたわわに実っており、トマトが大好きな学生達はこれらのトマトを使って卒業研究に汗を流しています。現在、世界で栽培されているトマトの故郷は南米のアンデス山地とゾウガメで有名なガラパゴス諸島です。これらは、コロンブスが南アメリカ大陸を発見した際にヨーロッパに持ち込まれ、あっという間に世界中に広まっていきました。そして、パスタ料理など、今までになかった料理方法が開発されていったのです。作物の中では歴史の浅いトマトですが、その素晴らしいパワーに魅了されますね。ところで、野生のトマト達にはさらに素晴らしいパワーを持ったものが多いので、品種改良をするための「素材」として大変重要な資源になります。野生のトマトが持っている、知られざる「パワー」を発見して、品種改良に生かしていければいいですね。その研究の一端をご紹介すると、まず、「害虫を寄せ付けない、ネバネバトマト!」―これは、アンデス山地のペルーに自生しているものの中から発見されたのですが、トマトの害虫が葉の表面にぺったりとくっついてしまい動けなくする性質を持っています。この種類の特徴は、葉や茎、果実の表面に長さ1mm程度の細かい毛がびっしりとはえていて、毛の先端からネバネバした粘着物質を出すための特殊な細胞を持っていることです。この種類を使って栽培トマトとの雑種を作り、いずれは害虫のやって来ないトマトが出来ればいいと思っています。次にご紹介するのは、「海水でも育つトマト!」−これはガラパゴス諸島に自生していた種類の中から発見されました。海水がざぶざぶとかかっても平気な所にはえていて、塩類に大変強い性質を持っています。ということは、海に近くて塩害で悩まされている地域での栽培、砂漠化によって塩類が地上に吹き出ている地域でトマトを栽培可能にしてくれる可能性を秘めています。有害な塩類とうまく付き合う仕組みを持っているのです。このトマト、ゾウガメに食べてもらうことによって種子の発芽が促進されるという、一風変わった性質を持っています。故郷ではゾウガメとともに共存しているのですね。これらの他にも、バニラのような甘い香りのする種類、健康食品の代名詞であるポリフェノールやカロテン、ビタミンを多く含む種類などがあります。このように野生のトマトはわれわれ人類が知らない性質をたくさん持っている「パワートマト」ですが、地球規模の環境変化、例えば、地球温暖化やエルニーニョ現象の影響などで絶滅の危機に瀕しています。領域の温室ではこれらの貴重な野生のトマトをたくさん栽培しています。興味のある人は、是非、見に来て下さい。
植物機能開発科学領域 田淵俊人


アンデスに自生する「ネバネバトマト」

ガラパゴス諸島の「海水に強いトマト」

ポリフェノール入りの紫色をした野生トマト

サボテンの下に生える野生トマト

野生トマト

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