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食品の高温殺菌保存技術

戦争に利用する目的で技術革新が進んだという例は多々あるように思われます。缶詰などの高温殺菌保存食品の製造技術もそのひとつです。18世紀末、前線の兵隊の食糧をどう確保するかという問題に直面したナポレオンは、高額の懸賞金をかけて、食品の保存技術を公募しました。1804年、アペールというフランスの食品技術者は、食品をびん詰めにして加熱して長期保存する技術を開発しました。アペールは高額の懸賞金を獲得しました。
数年後、英国でブリキの容器に食品を詰めて加熱する方法が開発されました。缶詰の発明です。その後、100℃以上の加熱ができるオートクレーブが開発され、缶詰による食品の保存技術は現在の技術に近いものになりました。
ところで、みなさんは開封しなければ缶詰の中の食品が長期保存できることを知っています。でも、どうしてでしょうか。
家庭で調理した食品を室温に数日置くと、カビが生えたり、表面に妙な膜がはったり、変なにおいがしてきたりして、食べられなくなります。これは、食品の腐敗を起こす微生物が増殖するからです。腐敗を起こす微生物はどこにでもいます。空気中を漂っていますし、手や調理器具にもついています。時には食中毒を起こす食中毒菌が食品材料に付着していたりします。
瓶詰や缶詰にしてオートクレーブで加熱(これを「レトルト」という)すると、食品を腐敗させる微生物を殺すことができますので、長期保存が可能になるのです。
驚いたことに、びん詰や缶詰が開発されてしばらくは、その保存原理が正しくは知られていませんでした。当時は「空気と接触しないことで長期保存ができる」と考えられていたようです。
フランスの細菌学者パスツールは1861年、腐敗は微生物によって食品が変質することであることを発見しました。もともと空気を抜くために密封して加熱する目的ためだったびん詰や缶詰の技術は、実は、腐敗を起こす微生物を殺菌していたのです。
現在、食品は色々な容器に充填されて流通しています。レトルトパウチに充填されたカレーが販売された時には、その画期的な方法論に驚いたものです。紙パックに入った飲料では殺菌された包装資材に殺菌された飲料が無菌的に充填される高度な技術が用いられています。PETボトルへの無菌充填システムも開発され、これまで難しかったミルク入り飲料なども常温流通が可能になりました。
ふだん、当たり前のように利用している食品の保存技術について、容器をながめながら考えてみるのも楽しいですよ。(生命化学科、新本洋士)


実験室で使われている不対オートクレーブ。121℃で20分間加熱殺菌します。

細菌学者パスツールの名前は、先の細いパスツールピペットに残っています。

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