ゼミガイド

研究紹介

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源 邦彦講師

研究キーワード
言語、科学、人種、搾取・抑圧

科学が解放する!

わたしが言語と社会、言語と支配の関係に興味を持ち始めたのは、大学三年生の時に一生の恩師ともなるある教授の授業を履修したことがきかっけでした。専門分野は社会言語学と呼ばれ、授業のテーマはアジア地域における英語の多様性というものでした。当時も今もそれほど大きな違いはないかもしれませんが、私の英語に対する当時のイメージは、肌の色が白いヨーロッパ系の男女が使用する画一化された英語が正当な英語であり、それを習得できなければ失敗であるという、非常に歪な強迫観念で満たされていました。これは、私たちがことばに対して抱く考え方が大きく影響していると考えられますが、言語学そしてそれとともに歩んできた応用言語学という科学が歴史的に英語を文法という名のもとに画一的な純粋体として描き、それを権威づけた結果でもありました。この授業で扱われていた社会言語学は、世界各地で使用される英語が、使用者の第一言語、教育、性、年齢、職業、人種・民族、地域、歴史、文化、外交関係等などさまざまな要因が作用することで多様な姿になっていることを教えてくれたのです。戦後という特殊な経済政治的環境の中で構築された言語学、応用言語学によって純化された言語観を正常化してくれた、すなわち、言語の多様性に気づかせてくれたのが社会言語学だったのです。

科学が差別する!?

科学は、多くの点で、これまで経済的搾取と人種的抑圧に加担してきました。18世紀中ごろから、欧米の白人社会は、アジア、アフリカ、アメリカの白人以外の人々への搾取、抑圧を正当化するための科学的論理を構築、利用してきました。まずは、人類を人種によって分類し、いかに非白人諸集団が白人集団に劣っているかを描き、荒唐無稽な分類が科学的知識として成立しました(その代表格が皆さんが授業で聞いたことのあるスウェーデン人博物学者「リンネ」による分類です)。ヨーロッパ社会で誕生した人種分類は、アメリカ合衆国の政治家や科学者、とくに人類学に受け継がれました。ことに、アメリカ白人社会が大量の奴隷を市民として受け入れる必要性が生じた1860年前後になると、それまでの人類学が行った肉体的形質に基づく人種差別は科学的根拠に欠ける手法としてすでに信頼性を失っていたため、政界、経済界、学術界が一体となって、肉眼では認識し難い基準で特定人種、民族を差別化する手法を心理学の中に構築しました。この心理テストによって、多数のアフリカ系奴隷子孫(通称黒人)などの「望まれない」諸集団が社会活動に参加することが困難であることを裏付けようとしたのです。この手法は、のちに、社会学、教育学、言語学、遺伝子学などさまざまな学問分野と相互作用しながら、認知疾患、言語障害という病名を作り出し、多数のアフリカ系奴隷子孫やチカーノ(メキシコ系アメリカ人)の子供たちが精神遅滞児学級や職業訓練コースに送り込まれることになりました。1960年代の公民権運動、ブラックナショナリズム運動の時代には、白人学者が構築した社会学、人類学、教育学、心理学、言語学という様々な人文社会科学に潜む人種主義が暴かれるようになり、以前のような科学的人種主義は勢いを失っていきました。その一方で、アジア、アフリカの非白人諸集団、アメリカ国内の非白人諸集団に対する経済、政治的搾取、抑圧を正当化する新たな論理を、人類学、社会学、言語学、経済学など人文社会科学は構築し始めたのです。以前からの人種主義的な考え方を維持しながらも、一般には人種主義とは認識し難い非常に洗練された表現法を編み出したのです。たとえば、大学時代にわたしを言語学的偏狭から解放してくれた社会言語学のある部分は、一見すると人種主義とは解釈が難しい概念・用語、基準、方法、解釈、理論を実社会(主として教育)に提供することによって、今日でも、とりわけアメリカのアフリカ系奴隷子孫、チカーノの多くが、そして世界中の人種的マイノリティーが言語的ふるいにかけられ、教育、経済、司法等で搾取、抑圧されています。このように社会言語学を含め人文社会科学は、人々を救済する側面もあれば、抑圧する側面もあるのです。

科学は何のため?

科学を営むには研究者は資金を必要とします。そのため、研究者が所属する研究機関をはじめ、政府、企業や各種団体が研究助成金を提供しています。しかしながら、既存の分野と真っ向から対立する研究に対しては、とくに企業、各種団体、政府関連団体は気前よく助成金を出してはくれません。基本的には経済政治的利益を追求する政府、慈善団体(という名の企業)などが大学や研究者個々人に資金を提供するわけですから、結果としてそのような利益にもっとも貢献しうる学問知識が構築、蓄積される傾向があります。国家や国際社会を支配する経済政治集団の地位を脅かし、この人々の行為を正当化する論理を提供する研究分野を否定する研究は、なかなか研究資金が得られないどころか、研究する場も与えてもらえないかもしれません。そう考えると、科学はいつまでたっても基本的にはあるいはその大部分は世の中を経済的、政治的に支配する人々のために存在することになってしまいます。そこで、このような学問的慣行に亀裂を入れようと人種マイノリティー(非白人諸集団)の学者を中心に批判人種論的アプローチ(社会一般の常識に隠された人種主義的論理を明らかにしようとする研究手法)を採る学者が少なからずいます。わたしもこの数少ない学者集団の一人ですが、このような活動をわたしは言語学、社会言語学という分野で行っています。学生の皆さんには、既存の学問(言語学、社会学、法律学、教育学など)やマスメディアでは得難い知見を少しでもお伝えできればと考えています。

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