森のしずくとともに学ぶ
―イタヤカエデと、メープルシロップ生産プロジェクト―
北海道弟子屈町。阿寒摩周国立公園のなかにある玉川大学弟子屈農場には、イタヤカエデが生育しています。まだ雪の残る2月、木々が春を待つ静かな森に学生たちは分け入ります。
目指すのは、イタヤカエデの樹液採集。木の幹に小さく穴を開けると、ゆっくりと樹液がしずくとなって落ちてきます。1本の木から採れる量はわずか。100リットルの樹液を煮詰めて、やっと2リットルほどのメープルシロップができるそうです。
この繊細なプロセスに、学生とともに3年前から取り組んでいるのが、農学部 環境農学科の南佳典教授です。
「まだ越えなければならないハードルはありますが、いつかこのシロップを、みなさんの手元に届けられるようにしていきたい」
そう語る南教授と学生たちは、自然のリズムと向き合いながら、日々森と向き合っています。




学びの舞台は、北海道の森
弟子屈農場は、玉川大学が北海道に保有する実習・研究フィールドです。環境、生態、畜産、作物…幅広い農学的視点を、実際の現場で体験できるこの農場は、教室では得られない「手の記憶」を育ててくれます。
イタヤカエデの樹液採集は、その代表的な実践の一つです。
木がなぜ糖を蓄え、なぜこの時期に樹液を流すのか。雪解け、気温、樹種、生態系との関係…。採集の手順そのものが、農と自然の深い関係を知るきっかけになります。

森の香りがする甘さ
実際に弟子屈で採集・製造されたメープルシロップを試食する機会がありました。
スプーンにすくった一滴は、琥珀色でとろりとしています。口に含むと、まろやかでやさしい甘さ、そして木の香ばしさがふわりと広がります。
精製された砂糖のような鋭い甘さではなく、じんわりと身体にしみこむような、森のしずくのような味。人工的な加工をしていないからこそ、木そのものの生命力が感じられるのかもしれません。

木を活かす、学びをつなぐ

このプロジェクトは、木を植え、育て、活かす循環型の取り組み。
木材利用や森林整備だけでなく、“木とともに暮らす”ことの意味を広く学び直すための実践教育として、学生たちは年間を通して森と関わり続けます。
「農学」と聞いて、多くの人が思い浮かべる“畑”や“作物”の学びだけではありません。
木々の営みに目を向け、自然のサイクルを体感する。そんな学びも、ここにはあります。
未来に向けて、育てているのは「つくる力」
3年目を迎えたこのプロジェクトは、まだ発展途上です。
気候変動への対応、製造技術の工夫、衛生管理や安定生産の課題…。それでも、木と学生たちは、少しずつ、着実に成長しています。
「甘さ」を通して、自然を感じることがある。
「森」を通して、人と自然の関係を考えることがある。
そうした実感のひとつひとつが、未来の農学のかたちを育てていくのかもしれません。
雪道をスノモービルでイタヤカエデメープルシロップ樹液を採集する映像をご覧ください。