談話会報告

第22回 談話会 (2007年1月25日/21世紀COE 第22回 若手の会談話会)

青斑核
-ノルアドレナリンシステムとその認知機能への関与

射場 美智代 氏(玉川大学)


青斑核は、刺激に基づいた目的的な運動出力に関与すると考えられます

青斑核は脳幹第4脳室近傍、橋被蓋の吻側に両側性に位置する核であり、ノルアドレナリンを含有する脳内で最も大きな核として知られている。この核の大きさはサルでも2-3mmと、非常に小さな神経核であるが、広範な脳領域に投射することで、生体にさまざまな影響を及ぼすし、さらに認知的要素を含んだ様々な課題で賦活することが明らかになってきている。我々は眼球運動課題遂行中のサル青斑核から神経細胞活動を記録し、この核が刺激に基づいた目的的な運動出力に関与することを見つけた。また、この信号が皮質のどの領域から伝達されるのかを調べるために、青斑核に逆行性トレーサーを注入したところ、青斑核は前頭皮質のうち前頭眼窩野および前部帯状皮質から直接投射を受けていることが判った。本談話会では、青斑核の認知機能に関する役割を生理学的及び解剖学的に紹介するとともに、青斑核から入力を受けている背外側前頭前皮質におけるノルアドレナリンの役割に関しても論じたい。


サル前頭前皮質における機能コラムと
その解剖学的基盤

平田 快洋 氏(東京都神経科学総合研究所)


前頭前皮質におけるコラム構造が、ワーキングメモリのような認知機能の基礎的な入出力処理をおこなう”module/unit (機能コラム)”である可能性があります

霊長類の前頭前皮質は高度な認知機能を担う脳部位として盛んに研究が行われてきている。

これまでの解剖学研究によって、前頭前皮質も第一次視覚野や側頭皮質と同様にコラム構造を持つ事が示されてきた。これら感覚性皮質ではコラム構造が機能単位である事が明らかにされてきたが、前頭前皮質では未だ不明のままであった。そこで、サル前頭前皮質スライス標本と膜電位感受性色素による光学想定法を用いて、この問題を解決する事を試みた。 皮質中間層(Lower layer Ⅲもしくはlayer Ⅳ)を電気刺激すると、皮質表面と白質に向かって垂直に広がる活動クラスター(コラム活動)を誘発できた。この活動は皮質中間層を刺激した時のみ誘発され、その活動は興奮性シナプス伝達によって形成されていた。コラム活動が、解剖学的コラム構造とどのような関係にあるか明らかにする為に、蛍光トレーサー(fast blue)を9野に注入することにより、皮質間結合により形成される46野のコラム構造を染め出し、光学測定法によるコラム活動との対応付けを行った。その結果、コラム構造は遠心性ニューロン群(layer Ⅱ/Ⅲとlayer Ⅴに分布)からなり、コラム活動内部に含まれていることが分かった。またコラム活動幅とコラム構造幅には有意差はなく、過去に報告されているマカクザル前頭前皮質のcortico-cortical columnの幅に類似していた。これらの結果は、前頭前皮質におけるコラム構造が、ワーキングメモリのような認知機能の基礎的な入出力処理をおこなう”module/unit(機能コラム)”である可能性を示唆する。すなわち、前頭前皮質の担う高次認知機能は、複数の機能コラムのコミュニケーションによって支えられているのかもしれない。

日時 2007年1月25日(木)

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