談話会報告

第29回 談話会 (2007年12月10日/第6回 若手の会談話会)

タンパク質リン酸化による脳機能の制御

高橋 正身 氏(北里大学医学部)

きわめて複雑な構造を持つ脳の仕組みを理解するためには、様々なアプローチによる研究が必要ですが、我々は脳の機能を分子レベルから理解したいと研究を進めています。脳の機能は、シナプスと呼ばれる特殊な接合で機能的に連絡するおびただしい数のニューロンからなる神経回路によって担われています。シナプスでの情報伝達の効率は固定されたものではなく、神経活動などによって可塑的に変化しており、シナプス可塑性と呼ばれるこのような性質が記憶・学習を始めとするさまざまな脳機能の発現に必須の役割を果たしています。

シナプス伝達を担う神経伝達物質の放出効率は、短期的にはさまざまなタンパク質リン酸化酵素によるリン酸化で制御されており、その制御がシナプス可塑性の一つの重要な機構となっています。神経伝達物質はシナプス小胞に貯蔵され、開口放出によってシナプス間隙に放出されますが、我々はタンパク質リン酸化酵素であるプロテインキナーゼCが、開口放出に必須のタンパク質であるSNAP-25の187番目のセリン残基をリン酸化することを見いだしました。このリン酸化が脳機能の制御にどのような役割を果たしているかを知るため、セリン残基をアラニンに置換し、SNAP-25のリン酸化が起こらないようにした遺伝子改変マウスを作成したところ、情動異常やストレス脆弱性などの数々の驚くべき性質を示すことが明らかとなりました。今回の講演ではこれらの成果を中心にご紹介したいと思いますが、その前に「脳の特殊性」「シナプス可塑性」「開口放出」「タンパク質リン酸化」という4つのキーワードをまず説明し、他分野の方にもより良く理解して頂けるようにしたいと思っています。分子レベルからのアプローチを高次機能の理解へと繋げるため、さまざまなアプローチをとられている方々から、多くの活発なコメントを頂けることを期待しております。

日時 2007年12月10日(月)17:00〜19:00
場所 大学8号館(工学部)第2会議室

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