談話会報告

第33回 談話会 (2008年4月25日/グローバルCOE 第1回 若手の会談話会)

時間知覚と視聴覚

加藤 正晴 氏(東京女子医科大学医学部 乳児行動発達学講座・助手)

本講演では東京女子医科大学乳児行動発達学講座の加藤正晴助教に、視覚・聴覚からのイベント入力に対する人の感覚運動協調について、ご自身の研究結果や最新の研究状況を交えながら丁寧にご講演いただいた。

私たちは、目や耳などの感覚器から入力される外界からの様々な入力刺激に対して常に適応をしながら(位相を合わせながら)生活している。この能力は人間にとって不可欠なものであるが、近年の研究によって、時間変化する外界からの入力イベントに対してミリ秒単位で同期をとれる高度なタイミング制御機構が人間には備わっていることが明らかにされていることをまず紹介いただいた。

特に加藤氏は、知覚タイミングの誤差情報をもとに行う短期的な修正機構について長く研究に携われており、本講演前半では、ご自身の研究史に沿ったお話をいただいた。次に、同期タッピング課題(被験者は呈示された刺激に可能な限りあわせて指をタップする)は、この制御機構の観察において大変に有用なもののひとつであることをご説明いただいた。

本講演では、フラッシュ光(視覚)と音パルス(聴覚)を入力刺激として用いた同期タッピング課題が紹介された。今回は同期タッピング課題に対して、【条件A】ISI(各入力刺激の繰り返し周期)を一定にする、【条件B】ISIは一定、しかしbeatタイミングとは無関係に外乱刺激を入れる、【条件C】ISIに時間的な大きな摂動を加える、但し外乱刺激はなし、【条件D】ISIに被験者が全く気がつかない程度の時間的な摂動を加える、但し外乱刺激はなし、の4条件を設定したときについて詳しくご説明いただいた。解析では、beatタイミングに対する被験者のtapタイミングの時間差を表わすSynchronization Error(SE)を用いた。その結果として、第一に、私たちには周期的な刺激に対して身体反応が先行する“負の非同期現象(negative asynchrony)”があることを示された。これは、人間の内部におけるある種の主観的な体内時計があることを示している。次に、同期タッピング課題時の結果を示された。すなわち、外乱がない時には、フラッシュ光に同期するときに比べ、音パルスに同期させるほうが精度が高いことを示された。驚くべきことは、被験者が気づいていないような摂動が呈示される聴覚刺激に含まれるような場合でも、タッピングの精度は高かったことである。

これらのことは、私たちの時間知覚には、何らかの内的なリズム機構があり、さらに知覚された誤差情報をもとに行う短期的な修正機構は、視覚系というよりは聴覚系の神経基盤に由来するものであると結論付けられることを示した。本講演は、私たちの認知的なタイミングの知覚機構と身体的な運動制御機構との間に密接な関係性があることを示唆するものである。後者に関しては、小脳や大脳基底核を中心とした運動制御機構の関わりが示唆されるが、前者に関しては加藤氏が述べた聴覚系の神経基盤に由来するという知見はとても新鮮であり、私たち人間の感覚運動協調の機序を考える上での新しい知見の一つとなる講演会であった。

日時 2008年4月25日(金)10:30〜12:00
場所 玉川大学研究管理棟5階507室
報告者 佐治 量哉(玉川大学脳科学研究所・助教)

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