談話会報告

第41回 談話会 (2008年12月17日/グローバルCOE 第9回 若手の会談話会)

バキュロウイルスを利用した
ミツバチへの遺伝子導入法の開発

池田 隆 氏(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)

本講演は、玉川大学脳科学研究所のGCOE研究員である池田隆博士によるものである。池田博士が取り組んでおられるミツバチへの遺伝子導入法開発の現状と問題点、展望について話していただいた。ミツバチの脳はヒトと比べて10万分の1にすぎない約100万個の神経細胞から構成されているにもかかわらず、優れた記憶・学習能力や、コミュニケーション能力を発揮し、高度な社会性を作り上げている。近年ミツバチの全ゲノム配列が決定され、分子生物学的研究の新しいモデル生物としての礎ができた。しかし、個々の遺伝子の機能解析に欠かせない遺伝子導入法がまだ確立されていない。他の昆虫で用いられる卵への外来遺伝子のインジェクション法は、幼虫の間、巣内で働き蜂から給餌されて育つミツバチでは適用しづらいという。そのため、池田博士は実験室で容易に飼える蛹期に注目し、これに昆虫ウイルスの一種であるバキュロウイルスを外来遺伝子の運ぶためのベクターとして利用することを思いついた。このウイルスに外来遺伝子を組み込んだ上で、ウイルスの感染力を利用して導入するという戦略である。お話は遺伝子組換えミツバチ作製に必要な2つの項目にわけて行われた。すなわち、(ⅰ) 高効率で蛹細胞にバキュロウイルスを感染させ、外来遺伝子を発現させること、(ⅱ)細胞内に入った外来遺伝子をミツバチゲノムに組換えることである。(ⅰ)については、通常の状態でも外来遺伝子を発現させることは可能であるものの、より感染効率をあげるためにミツバチウイルスの感染に重要であることが予想される外殻タンパク質をバキュロウイルス表面に提示させるという方法についてお話しされた。(ⅱ)については、piggyBacと呼ばれるDNAから切り出されたり他の部位へ挿入されたりを自ら行う転移因子の転移機構を利用することを試されたお話だった。切り出し・挿入酵素遺伝子と、その認識配列をバキュロウイルスに組み込み、蛹に注射したところ、蛹細胞内で認識配列間の切り出しが起こった結果を示された。これらの結果はバキュロウイルスとpiggyBacの組み合わせが、ミツバチの遺伝子組換えに有効であることを示唆するものである。ただ今後の課題として、ミツバチが生存できる範囲内でさらにウイルスの感染力を高める工夫、発現量を高める工夫が必要であり、そこについては研究中であるということだった。さらに現段階はまだ働き蜂を使ったいわば予備実験であり、この方法で女王蜂の卵巣にウイルスベクターを導入できるかどうかということも重要なポイントであることも指摘された。バキュロウイルス、ミツバチウイルス、piggyBacという異なる生物に由来する遺伝的因子を抽出し、ミツバチの遺伝子組換えに利用しようとするお話は、生物の機械的な一面を強く感じるものであり興味深かった。また、そういったバイオテクノロジーには様々な生命現象の基礎的な研究が重要であることも感じた。

日時 2008年12月17日(水)17:00〜18:30
場所 玉川大学大学7号館(農学部2号館)401
報告者 佐々木 哲彦(玉川大学脳科学研究所・教授)

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