談話会報告

第43回 談話会 (2009年2月6日/グローバルCOE 第11回 若手の会談話会)

鳥はどうやってさえずりを変えるのか?
−さえずり可塑性における大脳基底核経路の役割と
そのメカニズム−

小島 哲 氏(Keck Center for Integrative Neuroscience, UCSF・Associate Specialist)

本講演では、鳴鳥のさえずり研究では世界最高レベルの研究室であるUCSFのDoupeラボのポスドク、小島哲さんにキンカチョウのさえずりに関する最新のデータと今後の研究の方向性についてご呈示いただいた。 キンカチョウなどの鳴鳥(Songbird)は、言語を学習する人間と同様、自身の音声を手本となるさえずりにマッチさせることによりさえずりを学習・維持することが知られている。人間と同様に、後天的な学習によって音声構造の大きく異なる言語学習をするほ乳類は知られていないこともあり、鳴鳥の歌学習が人間の言語学習のモデル系として、最も優れている系の一つであるということだった。玉川大学脳科学研究所には、赤ちゃんの言語発達を調べる部門がある。ヒトを使った研究の場合、詳細な機構を調べるには、技術的な限界がある。このようなモデル動物を用いた研究により得られた知見により、新しい角度から言語発達研究を進めていけるのではないかと感じた。また、鳥のさえずり行動は求愛の際の他個体とのコミュニケーションに用いられる。本Global COEプログラムのメインテーマである「コミュニケーションによる対人関係の構築」に直接関係した研究ができるのではないか、などとも考えた。

また、聴覚フィードバックによって依存したさえずりの可塑性には、さえずりの運動神経経路に投射する大脳基底核−視床−大脳皮質経路(basal ganglia-thalamo-cortical circuit)が不可欠であるが知られている。この経路は、ほ乳類において、本global COEプログラムの研究対象の3本の柱の「知・情・意」と深く関係している大脳基底核経路の感覚運動学習と共通している部分があり、さらに、実験的な対象として優れているようだ。なぜなら、鳴鳥におけるこの経路は、さえずり行動のみに特化している経路であり、行動と脳活動の対応が比較的容易であるからである。このようなメリットをもった鳴鳥のさえずり研究であるが、残念ながら国内において鳴鳥研究は盛んではないため、なかなか最新の研究成果を知るのが難しいのが現状である。今回の講演では、大脳基底核経路の出力がどのようにさえずりの運動神経活動に影響を与え、さえずりの可塑性を引き起こしているのかについて、未発表のデータを含む最新の研究結果を示していただき、大変有意義であった。

日時 2009年2月6日(金)18:00〜19:30
場所 玉川大学研究センター棟1階セミナー室
報告者 福島 康弘(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)

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