談話会報告

第46回 談話会 (2009年5月15日/グローバルCOE 第14回 若手の会談話会)

色覚中枢の場所と情報表現

鯉田 孝和 氏(生理学研究所 感覚認知情報研究部門・助教)

本講演では、総合研究大学院大学(生理学研究所)の助教、鯉田孝和氏に、脳における色覚情報の高次処理についてのご講演を頂いた。視覚情報処理の最終段階に位置する下側頭皮質は、色や形の複雑な情報を統合して物体認知に重要な役割を担っている領域と考えられてきた。しかし最近は、非常に広大な領域を含む下側頭皮質の機能は一様ではなく、近年、顔や色などの特定の視覚刺激に応答するニューロンが密集して存在し、パッチ構造を作っていることが分かってきた。鯉田氏らは、下側頭皮質に色刺激に特化したパッチを少なくとも二つあることを確認しているが、そのうちの前方(Anterior Middle Temporal Sulcus近辺)に位置するパッチに注目し、(1)その特性はどれだけ色に特化しているのか?(2)そのパッチに特化した機能は何か?という2点について検討、考察した。

講演で鯉田氏は、下側頭皮質の前方に位置するパッチは色の知覚に中心的な役割を果たしていることを示唆した。さらに、特にカテゴリー的に判断するときとしないときでダイナミックに活動が変化することから、大きな認知コントロールを受けながら情報を表現していると考えた。先行研究では、下側頭皮質の各ニューロンは、明確な図形特徴を頑健に表現しており、それらが全体として、複雑な物体の認知に関わっていることが示唆されてきたが、色のような単純な知覚も、それがカテゴライズされるときには、その情報表現は大きく変化することは、実はカテゴリー知覚という、トップダウンの情報表現に実は非常に重要な役割を担っていることを鯉田氏らの研究は示唆していると思われた。このことは、下側頭皮質は解剖学的にも前頭前野からの強いフィードバック投射があることの意味を示唆しているのではないか。CrickとKochの意識についての仮説と併せ考えると、意識とカテゴリーとの密接な関係を基礎づけているようにも思われ、大変興味深い。また、下側頭皮質を電気刺激しようという普通は、何も面白い結果は選られなさそうに思い、敢えて手を出さないような実験もとにかくやってみるという柔軟さは、セレンディピティをたぐり寄せる技術として学ぶべきものは大きいと思った。

一旦はほぼ重要な問題に手が着いてしまったと思われるような領域でも、少し異なる視点でアプローチしてみることで、実はそこにはまだ大きな宝が埋まっている可能性があることを示した鯉田氏の研究は、GCOEの若手研究者にとって、柔軟な発想の重要さを知る上で非常に有意義な講演であった。

日時 2009年5月15日(金)16:00〜17:30
場所 玉川大学研究管理棟5階503室
報告者 松元 健二(玉川大学脳科学研究所・准教授)

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