談話会報告

第48回 談話会 (2009年7月3日/グローバルCOE 第16回 若手の会談話会)

博士号取得者の可能性と未来

丸 幸弘 氏(株式会社リバネス・代表取締役)

2009年7月の談話会では(株)リバネス代表取締役の丸幸弘氏を迎え、「博士号取得者の可能性と未来」についてお話を伺った。丸氏自身も会社社長でありながら生物学の分野で学位を取得された博士号取得者である。

文部科学省の大学院重点化計画以後、博士号取得者が増加し、それに伴い定職につけない博士の数が増加傾向にある、いわゆるポスドク問題が深刻になりつつある。2006年度には博士課程修了者の約4割が定職につけず、任期付きの職であるポストドクターの数は1万6千人に達する。米国では、アカデミア以外の就職先も比較的ひらかれており、博士号取得者のうち34.3%が営利企業に就職しているが、日本では16.9%と低迷する。アカデミアにも民間企業にも行く先のない博士号取得者は「末は博士かフリーター」と揶揄されるほどの存在になりつつある。

決して明るくない日本の博士号取得者の未来について、何を語っていただけるのかと思っていたら、丸氏はトークの冒頭から自己紹介とともに自身の借金の話を始めた。自分は2億もの借金をしても笑って生きていられるのだから、多くの人が博士課程在学中にこしらえる数百万の借金(奨学金)など大したことはない、という励ましだった。しかし、これは残念ながら励ましにはならなかった。それは丸氏が、大学院在学中に学生から集めた出資金でベンチャー企業を立ち上げ、タダ働きしてでも尊敬する会社社長から経営のノウハウを学び、わずか数年で銀行から2億円の融資を取り付けるに至るまで会社の信頼を築きあげた型破りな人物だったからである。話し方も面白く、こんな生き方もあるのかと感心できる内容であったが、できればもう少し「フツウの」博士号取得者の方のお話を伺ってみたかった。

博士号取得者と企業の求める人材とのミスマッチを克服しようと様々な事業を展開するリバネスの今後には期待が高い。ビジネスの世界でも研究の世界でも、重要な問題を掘り起こし、鋭く切り込んでいく能力は共通して重要なものである。博士号取得者が博士課程で培った能力を、アカデミックな研究の分野だけでなく広く社会一般で活用できる日が来てほしいものである。

日時 2009年7月3日(金)17:00〜18:30
場所 玉川大学研究管理棟5階507室
報告者 宮﨑美智子(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)

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