談話会報告

第63回 談話会 (2010年10月12日/グローバルCOE 第31回 若手の会談話会)

同定と最適化のプロセス

井澤 淳 氏(電気通信大学 情報システム学研究科・特任助教)

今回は、東工大の大学院で工学の学位を取得された後、ジョンスホプキンス大のReza Shadmehrのラボでポスドクをされてきて、主に運動の学習についての神経機構と制御の計算論を研究されてきた、電気通信大学助教の井澤淳先生に若手の会の講演をお願いした。

運動学習は、私たちが何気なく行っている行動が、自動化された行動スキルへと変化するのに重要である。このような運動学習の神経機構は、小脳や大脳などの運動関連領域だけでなく、大脳基底核などの報酬との関連している領域の関与が注目され、近年研究が進んでいる領域である。井澤さんの主な研究は、マニピュランダムと呼ばれる運動をしている最中に運動出力に応じて外乱をシステマティックに加えられるロボットを用いて、行動学的に外乱に対する適応や脱適応の様子を見ることで、ヒトの運動学習の特性を明らかにしようとするものである。特に彼の見方は、これまでの運動学習が目的とする動き(軌道)からのずれ(エラー)を修正する誤差修正学習として定式化だけではなく、どれだけうまくいったのかという基準(報酬)を最大化する最適化問題として定式化し、それを強化学習等と同様の、確率的環境における最適化アルゴルズムと、内部モデルの学習過程、フィードバックを含む制御系との組み合わせによって説明しようとする試みであった。毎回試行錯誤する運動を説明するための計算論的モデルを仮説として構築し、明確な概念とアルゴリズムによる予測と行動実験との結果の対比から脳のアルゴリズム(計算方法)と実装(実現方法)を検討するという方法は、この運動学習の分野でも非常に重要であり続けている。

彼は特に試行の乱雑性と予測確率分布から学習に用いるゲインを決めるカルマンフィルターと同様の運動学習モデルを提案している。運動のエピソード記憶に相当するような1回の軌道や力の経験を内部モデルの学習にどのように活かしてゆくのかという問題をエレガントに定式化し、実際の行動学習のパラメータと対比するという、最新の結果について説明いただき、大変エキサイティングでおもしろい結果を見せていただいた。さらには、このモデルで使われる内部変数や変換の計算と特定の脳部位を対応させる神経機構のモデルを提案されている。提案されているような運動学習を実現する脳部位の仮説を確認するためには、イメージング研究や疾患研究などと組み合わせる必要があるが、そのような実験を続けてゆかれるとのことなので期待したい。

日時 2010年10月12日(火)17:30〜19:00
場所 玉川大学研究管理棟5F 502室
報告者 鮫島 和行(玉川大学脳科学研究所・准教授)

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