談話会報告

第65回 談話会 (2010年12月8日/グローバルCOE 第33回 若手の会談話会)

錯覚を用いたノンバーバル・インタフェースとその応用

安藤 英由樹 氏(大阪大学大学院 情報科学研究科・准教授)

本講演では、大阪大学大学院情報科学研究科の安藤英由樹准教授が、これまで進められてきた知覚のしくみを利用した新しいノンバーバル・インタフェース技術の研究をレビューするご講演を戴いた。さらに、展示作品となったいくつかのインタフェースのデモンストレーションをまじえて、感覚情報の不思議さと、それを利用した情報技術やアート・エンターテイメントとの新しいつながりを紹介して戴いた。また、その背後にある感覚・運動の相互作用や知覚のメカニズム、自己感覚の再認識についてなどを幅広く議論した。以下に、講演内容を述べる。

新たな情報機器として、ノンバーバルな情報を扱うヒューマン・インタフェースの研究が進められている。特に講演者らは実用化を目指して、装置の複雑さや煩雑な装着性などの問題を解消するとともに、最低限の情報量で最大限の効果を得るような方法・設計論を構築することが重要と考え、人間の錯覚現象を利用して物理的制約を緩和する設計指針に基づくインタフェースの開発を進めてきた。本講演では実例として、振動刺激から凹凸の感覚を惹起させる手法(SmartFinger)、頭部に電量を流すことで前庭感覚を制御(パラサイトヒューマン)、サッカードという眼球運動を利用して1次元映像を2次元映像として提示する手法(サッカードディスプレイ)、心音を聴覚的にフィードバックさせ情動を制御するなどの手法(心音移入)などの実例と、一部デモンストレーションを行った。また、これらの展示などへの応用例と、それによって得られた知見等についても議論した。特に、これらインタフェースを通して自己感覚を再認識するという議論は興味深かった。これは、講演者らが開発する新しい感覚を生み出すインタフェース装置の使用と体験によって、今まで当たり前のように感じていた感覚が当たり前ではなくなり、ありえなかった感覚を当たり前のように感じることによって、自己感覚を再認識するという考えである。確かに、このようなインターフェースによる新たな世界観の体験・認識は、改めて人間とその社会をみつめなおすきっかけとなり得ることだろう。

以上本講演は、運動や知覚のメカニズムを応用したインタフェース開発の研究に加え、芸術表現としての先端的科学技術の社会貢献も示唆する内容であった。安藤准教授の、今後の研究のさらなる発展と成功を願う。

日時 2010年12月8日(水)17:30〜19:45
場所 玉川大学研究センター棟1階101演習室
報告者 加藤 康広(玉川大学脳科学研究所・嘱託研究員)

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