談話会報告

第84回 談話会 (2012年7月18日/グローバルCOE 第52回 若手の会談話会)

Brain structure and individual differences
in complex social behaviour

金井 良太 氏(ロンドン大学・PD、JST・さきがけ研究員)

本講演では、ロンドン大学のPD&さきがけ研究員の金井良太氏に、社会性に関係した脳形態の個人差について、ご自身の一連の研究成果を、最新のものも含めてご講演いただいた。

話は18世紀の悪名高い骨相学に遡る。頭蓋骨の形態から、個人の性格特性や能力が分かるという骨相学は、現代では非科学的であるとされる。しかし、果たして本当にそうだろうか。手相に見る生命線の長さと重病との相関、人差し指と薬指の長さの比と脳内テストステロン濃度との相関など、形態との有意な相関が見られる不思議な現象は意外にも全くの俗説というわけではなく、学術誌にも報告されているという。それなら私たちの認知や行動を直接に作り出している脳の形態を見るならば、もっと分かることは多いのではないか、そんな素朴な問題意識から、金井氏のトークは始まった。何が科学的で何が非科学的か、先入観を排して問い直す必要性を感じさせてくれる導入であった。

続いて金井氏の用いた方法、Voxel Based Morphometry(VBM)の概略説明。個人間の認知能力の違いは、灰白質の容量の違いとして検出可能とする前提に基づくこの手法は、最近の学術論文でもよく見かけるものだ。この手法を用いて、政治的性向と脳の形態との関係についての検討を行ったところ、帯状回前部の灰白質の容量が、リベラルな人ほど大きく、保守的な人ほど小さいということが分かったという。この結果は、GO/NO-GO課題中のエラー関連陰性電位(Error-related negativity: ERN)が、リベラルな人ほど大きく出るという先行研究とも一致しているとのことで、頑健性は高そうだ。金井氏の「脳の構造の違いから導かれる個々の性格や価値観に合致した情報を偏向して取り入れることによって、政治的信条が形成されるのかもしれない」との考察も興味深かった。

SNSにおける友達の数と、いわゆる「社会脳」と言われる脳部位の灰白質容量との間にも有意な相関が見られるという結果も紹介して頂いた。そもそも、霊長類の脳の大きさは、群れのサイズと相関するという説があり、しかも、脳の大きさから、処理できる社会的な情報量の要因としての適切な群れサイズを計算できるというから面白い。ヒトの場合はこれが150名くらいと言われているとのことで、これはさまざまな社会調査ともマッチしているというから驚きだ。では、脳のどの部位が、つきあいの広さと関係するSNSの友達の数と相関するかというと、左の中側頭回、右の上側頭溝、右の嗅内皮質という、社会認知や記憶に関係する領域だそうだ。脳の形態の個人差が、実際の社会生活におけるパラメーターと相関するわけである。

このようなことがさらに明らかになっていくと将来的には、例えば企業の採用など人事に関わる場面で、脳の形態についても要チェックということになったり、脳の形態から適性を測り配置が決められる、というように、自由の制限につながったりはしないか、という心配も出てくる。もちろん、金井氏自身が言うように、VBMで検出される灰白質容量は、ミクロ構造の何を反映しているのか、そしてそれが機能とどのように関係しているかについて、分かっていないことは多い。とはいえ、脳の形態の個人差から何をどこまで脳科学的に言えるのかを脳科学者自らが、現段階で考えておき、来たるべき将来に備えておく必要があるのではないかと考えさせられた。

日時 2012年7月18日(水)13:00〜15:00
場所 玉川大学8号館第2会議室
報告者 松元 健二(玉川大学脳科学研究所教授)

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