談話会報告

第86回 談話会 (2012年10月10日/グローバルCOE 第54回 若手の会談話会)

海馬における逆行的可塑性

太田 宏之 氏(防衛医科大学校 生理学講座)

本講演では、防衛医科大学の太田 宏之氏にお越しいただき、「海馬における逆行的可塑性」というタイトルでの紹介をしていただいた。太田氏は慶應義塾大学で理工学を先行し、同大学院で前期博士課程を修了し、神戸大学で後期博士課程を修め、現在防衛医科大学の生理学講座で研究を行なっている。

本講義では、太田氏がこれまでに行ってきた海馬に関する研究を中心に、現在行っているオプトジェネティクスの研究についてもお話しいただいた。

講義ではまず、少し哲学的な内容で研究の動機を説明されていた。例として「決定論」と「ゆらぎ論」を挙げられていた。過去・現在・未来(X or Y)という状態があった時に、現在において未来を選択する自由があり、「決定論」は過去にその決定が内包されており、未来Xに行くかは過去の状態に含まれていて、未来Yは見かけに過ぎないと考えるものである。そして「ゆらぎ論」は、本当に未来Xに行くか未来Yに行くかはわからず、それは確率的に分かれていると考えるものである。神経科学との関係は、例えば現在の状態を一つのニューロンとして、このニューロンが受け取る入力はある時間幅を持ってみると変化し、それは擬似的に過去を選択することになる。また、選択の余地が広がっているフェーズが存在する。例えば、入力があって発火するミリセカンドオーダーの処理がなされているが、それに対してどのような入力があるかわからないが、それを受け入れる余地がある可塑性が存在するはずである。具体的に言うと、あるニューロンがアセチルコリンなどによって閾値が変化状態にあった時に、その間に入ってくる入力は任意であり、他のニューロンがあるニューロンを発火させるかどうかわからない。これは可塑性のレベルとスパイクの応答の系列との違いとも言える。

太田氏は、選択の余地があるニューロンでのレベルで議論したいと思い研究をされている。具体的な動機として、入力次元が変更される可能性があるものとしてニューロンを捉えた時に、その入力次元を変更するメカニズムはいくつあるだろうかと考え実験を行った。例えばLTP・LTDあるいはシナプスの生成と消失、ニューロン新生などが考えられ、太田氏が着目したのがMu-ming Pooらの培養細胞での逆行的可塑性の報告である。この実験系をスライスでできないかと考え、実際の実験を行った。はじめはCA3にパッチクランプを施し、CA1 alveusとペアリング刺激をしてCA3の電流注入に対する応答が変化しないかを確認しようとした。しかし、良い結果が得られないために細胞外での記録に切り替えた。そこでオプトジェネティクスを導入し実験を行った。具体的には、チャネルロドプシン2(ChR2)の発現ラットを用いて、CA3の細胞外に電極を刺しCA1 alveusに光刺激を与えた。光刺激を使うメリットは、電気刺激と違い時間幅を持った刺激が可能で、刺激中にCA3のスパイクが数えられ、応答性を確認することができる。CA3のスパイク数を数え、ペアリング刺激をした後にスパイク数がどう変化するかを見ると、応答の変化を検証できる。結果として刺激タイミング依存的にCA3の興奮性が変化することがわかった。また薬理実験も行い、そのメカニズムの一部を明らかにしたことも報告された。

後半では、オプトジェネティクスのテクニカルな話をしていただいた。効率良く局所刺激をするためのガラスキャピラリーの話や、パターン照明装置の作成の話などもしてくださった。オプトジェネティクスは最新の技術であり、今後の研究成果に期待が寄せられ、太田氏のさらなる発展と成功を願う。

日時 2012年10月10日(水)16:30〜18:00
場所 玉川大学研究センター棟1階101演習室
報告者 上條 中庸(脳情報研究科 博士課程後期2年)

談話会報告一覧に戻る TOP