談話会報告

第93回 談話会
(2014年3月4日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第4回講演会)

排他的行動を駆り立てる存在論的恐怖
〜認知神経科学からのアプローチ〜

柳澤 邦昭 氏
(京都大学 こころの未来研究センター/日本学術振興会特別研究員(PD))

京都大学こころの未来研究センターの柳澤邦昭先生に、「排他的行動を駆り立てる存在論的恐怖〜認知神経科学からのアプローチ〜」というタイトルでご講演いただいた。

存在論的恐怖とは、死が避けられないという認識から生まれる恐怖である。この恐怖に関しては、従来、社会心理学の領域で盛んに議論されてきたが、進化論的な主張など、現在も様々な議論が展開されている。これらの研究では、存在論的恐怖が排他性を高めるように働くことが繰り返し確認されている。たとえば、実験的に死の不安を喚起させた後では、自分の文化が外国の人に非難されることに対し強い抵抗を示すという。このような排他性への影響が確認される一方で、実験的に死の不安を喚起させることで内的プロセスにどのような影響があるのか、その内的プロセスと死の不安、排他性にはどのような関係があるのか、いまだ未解明な部分が多い。

こうした背景のもと、今回発表していただいた研究の主な検討点は、“死の不安が高い人ほど排他的になる”というこれまで議論されてきたモデルの確認、その間の内的プロセスの検討、そして性差の検討であった。結果から、死を想起させることが排他性と関わっており、死の不安が高い“男性”でのみ排他性が強まることが示された。また、死関連刺激の処理に右VLPFCの活性が関わっていることが示され、死関連刺激の抑制プロセスを反映している可能性も示唆された。さらに、死の不安が高い男性では、死を想起させた後に快情動刺激に対する側坐核の活動が高まることが示され、報酬系の処理が亢進しやすいことが報告された。なぜ男性でこのような結果が生じるのかについて、女性よりも男性で接近動機が高いことや、接近動機関連のパーソナリティが中脳辺縁系の処理システムに起因する可能性が述べられていた。また、進化心理的視点によれば、戦争のような集団間葛藤に勝利した場合に、男性が得る利益が女性に比べて相対的に大きいため、男性は死を意識させるような刺激を提示された場合に排他的行動が高まる心理傾向を身につけたと考えることもできる。

扱うのが難しいテーマであるが、多くの質問やコメントがなされたことからも、領域に関わらず関心を持てるテーマであることを感じた。今後の進展が気になる大変興味深い研究であり、非常に有意義な講演であった。

日時 2014年3月4日(火)16:30-18:00
場所 玉川大学研究・管理棟5階507室
報告者 藤井 貴之(玉川大学 大学院脳情報研究科 博士課程後期1年)

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