談話会報告

第108回 談話会
(2016年2月8日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第15回 講演会)

霊長類の社会性の基盤を多層的に探る

大西 賢治 氏
(東京大学大学院 総合文化研究科、日本学術振興会 特別研究員)

今回の談話会では、東京大学大学院 総合文化研究科 日本学術振興会特別研究員(SPD)の大西賢治先生にお話しいただいた。
大西先生は社会性(特に利他性)の個体差を生み出す基盤について、遺伝・内分泌系・経験・社会的能力といった要因を含む包括的なモデルの検討を行われており、その中で今回のご講演では、ニホンザルの社会行動におけるオキシトシン受容体遺伝子(OXTR)およびオキシトシン濃度の影響についての研究をご紹介いただいた。

これまでに、ヒトにおいてはオキシトシン受容体遺伝子(OXTR)のSNP(rs53576)において特定のアリルを持っている場合に、養育行動や社会行動が変化することが示されていた。大西先生の研究では、ニホンザルにおけるOXTRの多型がもつ社会性への効果を検討しており、エキソン領域の多型が利他行動をやり取りする相手の数と関わることや、イントロン領域での多型が他個体に利他行動を行う量と関係することを明らかにしている。また、尿中オキシトシンの濃度が利他行動を行う量と関連する一方で、OXTRの多型と尿中オキシトシンの濃度は関連していなかった。ただ、OXTRとオキシトシン濃度の関連についてはまだデータ数が少なく、現在継続して検討中とのことであった。体内のオキシトシン濃度と社会的行動の関連についてはヒトの研究でも示されてきたが、多型-濃度-社会行動、これらの関連はまだ明らかではなく、その解明に大きく貢献する知見となり得るもので、今後の進展が期待される。

もう一つ、ニホンザルの社会性には地域間差異があり、これまでに特定の地域に生息しているニホンザル集団で特異的な寛容性がある可能性が指摘されていた。大西先生と共同研究者のグループは、特定の範囲に撒いたエサに対して何頭の個体が集まって採食ができるか、また、2頭が協力しなければエサを得られない装置からエサを獲得できるかといった指標を用いて実験を行い、寛容性についての地域間差異を実証された。さらに、大西先生らは、OXTRをはじめとした、個体の社会性に関連するといわれている複数の遺伝子領域の多型を検討し、寛容性の高い集団には、特定の多型を持つ個体が多い傾向があることも示された。この点についてもまだ研究の途上ではあるが、大変興味深く今後の進展がとても待ち遠しい。

最後となりましたが、ご講演いただいた大西先生に感謝申し上げます。

日  時 2016年2月8日(月)17:00〜18:30
場  所 玉川大学 大学研究室棟 B107会議室
報告者 藤井 貴之(玉川大学大学院脳情報研究科 博士課程3年)

談話会報告一覧に戻る TOP