言葉の不思議

 

    高等部生からの追加質問

    なぜ、英語名ではStatuとしか言ってないのに日本語では女神と呼ぶのでしょうかねぇ。

     

    大谷より
    ちなみに英語ではStatueで、もともとはラテン語の「立つ」という意味があり、「彫像」という訳で使っていますね。ところで、『なぜ、ただのStatueをわざわざ「女神像」と呼んでいるのか』と、色々考えたのですが、「勝利の女神説?」の他にもう1つわかったことがあります。今、フランス語の辞書で調べましたら、Statueはもともとフランス語の女性名詞であるla Statue(立像)から来た言葉です。英語も日本語も名詞に女性名詞・男性名詞がないので、そのへんの感覚は違うかと思います。更におもしろいことは「自由、独立」という意味のLiberte(eの上に'がつきます。)も女性名詞 la liberteです。と、いうことで、女性名詞・男性名詞であることを訳すことはありませんが、"The statue of liberty"には女性的な要素が強い言葉であることがわかります。きっと、今度は「なんで、名詞に女性名詞と男性名詞があるの?」と聞きたくなるかと思いますが、これこそ感覚と習慣から長年培われてきたものと言えます。太陽は、男性名詞(ギリシャ神話のアポロンという男性の神)、月は女性名詞のla lune という具合に、やはりギリシャ神話の影響も受けていると思います。フランス語については、専門家である渡邊先生からいただいたコメントを参考にしてください。

    ちなみに、なぜ英語の多くがフランス語から来ているかといいますと、もう世界史で学ばれたかもしれませんが、11世紀の頭に今でいうフランス(当時はまだ国がなかった)のノルマンディ人が今でいう英国(当時はブリテン島)に住んでいたアングロ・サクソン人を征服したこと(ノルマンディの征服)に始まります。このときからフランス語は征服者の言葉、アングロ・サクソンは被征服者の言葉となりました。そこで面白い話をしましょう。英語で牛、鶏、豚、羊は家畜として生きているときは"cow", "rooster(雄)hen(雌)", "pig", "sheep"と呼びますが、食べる段階になると,"beef", "chicken", "pork", mutton"と変化します。これこそ当時の力関係が言語に残っているいい例と言えます。それは征服されている者の言葉(アングロ・サクソン)が"cow", "rooster(雄)hen(雌)", "pig", "sheep"であり、肉を食べる側の征服者の言葉が"beef", "chicken", "pork", mutton"として今でも残っているのです。征服されたアングロ・サクソンは家畜を育てても、その家畜を食べるのは征服者。当然使う言葉も家畜の時と征服者がごちそうとして食べる時では呼ばれ方が変わるのです。英語という言葉1つをとってもそこにはダイナミックな歴史と当時の人々の生活などが伺えてすごく面白いわけです。ちなみに今でも英語で高級なことに関わる単語の多くはフランス語に由来しているものが多いんですよ。(宝石(jewlry)とか)

    私はフランス語も歴史も専門ではありませんが、何かに取り組んで感じることは、「全てのことは必ずどこかで繋がっているんだな」ということです。英語でもなんでも、そこに人間が関わっているかぎり、歴史にも社会にも言語にも教育にも関わってくるわけです。学校で習った時はなんの関係も無かったように思えた教科が意外なところで繋がっていることに気が付いたりして面白いんですよ。興味のあることを追っていけば、全てがどこかに繋がっていると感じることがあるかと思います。Mさんの素晴しい好奇心、観察力、そして洞察力をこれからもどんどん伸ばしていってください。とても楽しみです。

    また、色々なことを一緒に考えたいです。

    P.S. アメリカの自由の女神は、アメリカ独立100周年に1886年にフランスから贈られたものです。