玉川大学教育博物館 館蔵資料の紹介(デジタルアーカイブ)

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館蔵資料の紹介 1991年

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古川正雄著『絵入智慧の環』

古川正雄著『絵入智慧の環』

『絵入智慧の環』古川正雄著
明治3~5(1870~72)年
木版和綴本
22.0×14.9cm
(上)同書4編8冊(各編上下2冊)
(左)初編上の扉と師匠から文字を字指によって教わっている図

写真は古川正雄の『絵入智慧の環(えいりちえのわ)』4編8冊(各編2冊、初編が明治3年刊、2編と3編同4年刊)です。明治5年の学制発布(8月)後(9月)の文部省小学教則によると、下等小学校8編(4年制の1年前期)で本書の初編が国語の中の「綴字」の教科書の一つにあげられています。他に柳川春蔭の『うひまなび』(刊行年不詳)と古川正雄の『ちゑのいとぐち』(明治5年刊)がとりあげられています。

本書が学制発布以前に出版されていたことに意義があります。学制発布以前は江戸時代からの伝統による「よみ、かき、そろばん」の授業が主流で、国語という科目はなく、「よみ」の中でとりあげられる教科書といえば、句読や読書のための漢学書、地理、地学、国史、法や規則等に関する読み物、往来物などの、いわゆる中国古典、国学、並びに新知識を教える洋学書であり、内容は総合的でした。従って、どの教科書が国語教科書であるかを決めることができない状況でした。こうした中で、本書が国語の初歩教材として系統立てて編集されており、いろは五十音のかな文字を最初にとりあげ、かなの綴字を学ばせ、かなに漢字を付すなど、国語教育の基礎をつくろうとする意図がはっきり見られ、国語の近代的な教科書の先駆的役割を果した重要な著書といえましょう。文部省は学制発布後、新しい教材観による国語教科書を具体的に示す必要があり、本書を初歩教材を扱った適切な教科書として例示しましたが、これは同時に、先進欧米の学習内容や方法に着目した時代の動向に合致していたともいえましょう。

この時代はまだ、国語科という一教科としてではなく、綴字、習字、単語、会話、読本、書牘(しょとく)、文法といった各教科に分かれた形でしたが、これがもとに、次第に教科が整理、統合され、やがて明治33年の「小学校令施行規則」が出て以降、国語科となりました。

本書の内容の概略は次のようです。

初編上は平仮名、変体仮名、日常使用の単語とその漢字及び絵、兆までの数の読み、自然を内容とする短文及び絵。初編下は片仮名、文法用語とその説明文及び例文、新しい単語とその絵。2編は世界の国名や国旗及び地図。3編は日本の地名や地図、4編は名所の紹介とその絵。各編の下はすべて文法が主です。

「全人」1991年9月号(No.519)より

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