玉川大学21世紀COE全人的人間科学プログラムは、さまざまな角度からヒトの脳機能を理解し、バランスの取れた人間教育や新たな産業に役立てることを目標としてきました。しかし、脳機能の理解を教育や産業に応用するためには、その基盤がしっかりと科学的に裏づけられたものでなければなりません。脳の高次情報処理研究部門は、科学的な応用研究を可能にするため、記憶・学習・思考に関する神経科学の基礎的研究を行ってきました。これらの研究は、主にネズミ・サルを使った動物実験とその結果に基づく数理モデル研究からなります。
ヒトの豊かな知性を実現する脳メカニズムを明らかにするためには、ヒトの脳を調べることが近道であるように思われるかもしれません。しかし、膨大な情報処理をこなす複雑なヒトの脳に段階的なアプローチなしに迫るのは、脳科学的知見の乏しい現状から考えると逆に問題を複雑にしてしまいます。また、動物実験で使われる脳機能の詳細を調べる手法の多くは侵襲的であり、ヒトに使用することはできません。そこで、我々はヒトの思考研究のモデル動物として実験動物としては最もヒトに近いマカク属のサルを、さらにその基礎を研究する被験体としてげっ歯類を選びました。サルを使った研究ではその萌芽がサルに見られるとされる意思決定と推論のメカニズムを、げっ歯類を使った研究では、学習・記憶に関してはほ乳類共通のメカニズムと考えられているシナプス可塑性のメカニズムをテーマとしました。これらの研究結果を統一的に説明・一般化するために、モデル研究も導入しました。