第15回
売ってないなら作ればいいのさ

物理実験室にある装置は年代物が多く、物理研究室の歴史の長さを感じさせます。一方、デジタル化が進む昨今、学生実験で使う装置たちも例に漏れず、メーカーがアナログ装置の生産をやめて、デジタル装置のみを取り扱うなんていうことも珍しくありません。また、直せる職人がいない、交換するパーツがないという理由で老朽化が進む装置たちの修理を断念せざる得ないこともあります。「物理学実験」をはじめとする実験の授業では、10名前後が同じテーマの実験を行うことが多いため、ある程度の装置の数がないと実験が行えません。そのような事情で、やむを得ず実験テーマを変更しなければならいないということがときどき起こります。今年度は、新たに「電気抵抗率の測定」という実験テーマを一つ立ち上げました。

みなさんもご存じのオームの法則「電圧=電気抵抗×電流」に出てくる電気抵抗、これは抵抗器などがもつ電流の流れにくさを表す量です。この電気抵抗は、抵抗器の長さが長いほど大きく、断面積が大きいほど小さくなります(数学用語を借りれば、抵抗器の長さに比例し、断面積に反比例します)。このときの現れる定数(比例定数)を「電気抵抗率」と呼び、「抵抗器の長さが長いほど大きく、断面積が大きいほど小さい」という電気抵抗の性質を確認する実験を行えば、自ずと求めることができます。

この電気抵抗の性質を確認するには、抵抗器の長さだけが異なる抵抗体と断面積だけが異なる抵抗体の電気抵抗をそれぞれ測定すればよいのですが、そのような実験装置は、残念ながら見つからず。「売ってないなら作ればいいのさ」と言うは易し、行うは難し。抵抗体にニクロム線を使うことにしたところまでは良かったのだけれども、ニクロム線はロールで売られているため、すぐに丸まってしまい、人力で伸ばすのはなかなか難しい。でも、電気抵抗を測定するためには、それなりの長さが必要で、伸ばさないと長さを正確に測定するのは難しい。様々な試行錯誤の末、写真のような装置が完成しました。ポイントは、板の両端に固定したギターのペグ。ギターの弦を調整する装置です。弦を張る要領でニクロム線を伸ばそうというアイディアは予想以上にうまくいきました。一見、弦楽器のように見えますが、張られているのは金属線。万が一にでも切れたりしたら危険ですので、くれぐれも演奏しないように。

2015年10月15日 水野貴敏准教授