第19回
人間工学研究室(ゼミ)の紹介2

ディスプレイの
一対比較実験の様子

ゼミの学生さんたちと取り組んだ人間工学研究やおもしろエピソードを紹介しましょう。今回は「高齢者にやさしいコンピュータディスプレイの人間工学的研究」の紹介です。

この研究は、一対比較法(複数の評価対象から2つずつ取り出し、良悪を判断してもらう方法)という手法で、高齢者に見やすいディスプレイ要件を明らかにしようとしたものです。視力が低下する高齢者に、パソコンを少しでも快適に使ってもらえるようにしたい、というのがねらいです。

エピソード1:お年寄り(被験者)がいない!!

順調に実験準備を終え、いよいよ被験者集めの段。しまった、キャンパスには65歳以上の人がいない。職員、教員の退職は60歳、65歳だった。ゼミ学生の祖父母にお願いとなったが、集まったのは2,3人。暗雲の様相。そんな時、玉川学園文化センターに高齢者が集まっていることを耳に。後日、半信半疑で出向いてみたら、和室に入りきれないほどの高齢者の皆さん。囲碁クラブの会長さんに「これこれしかじか・・・」とお願いしたところ、「玉川学園さんにはお世話になっているから・・・」と瞬時に定員オーバーとなりました。

エピソード2:微妙な比較判断できるかな。

比較の組合わせの中には判定がとても難しいものもあります。以前に行った成人を用いた実験では、微妙な比較判定にすごく時間をかける人が続出。視力が弱い高齢者ではもっと難儀するかも、と心配のタネ。ところが、高齢者の皆さん、どの比較も瞬時に判定。なぜかって?

成人の皆さんはどれにもピントが合うため、時間をかけて微妙な心理判定を・・・。一方、高齢者の皆さん、ピントが合うか合わないかで瞬時に判定。ピントがずれていたのは私たちでした。

エピソード3:スーパー高齢者にびっくり。

高齢になると調節力が低下し、とくに近くが見えなくなります。そこで高齢者にとつて見やすいディスプレイ条件は、「遠めに大きな表示を」と自信をもって予想。ところが、成人よりも近くで見るほうがよい、とするお年寄りが幾人もいたのです。成人よりも若い視機能をもつスーパーお年寄り!?。

この方たち、なんと遠近両用メガネを上手く使いわけていたのでした。高齢者を機能低下者としかとらえていなかったことに大反省。補助具を使えば、スーパーお年寄りになることもありえることを知りました。高齢者向けデザインでは、「各人の機能に対応させることの大切さ」をゼミの学生さんと学んだしだいです。やってみなければわからないことの発見。研究のおもしろさです。

2010年3月31日 阿久津正大教授