1マルハナバチの概日リズム
脳の重要な役割にリズムを刻む「ペースメーカー」としての機能があります。ところがこれが環境に適応する形でマスクされる場合のあることがわかりました。
これは北方系のマルハナバチにみられるもので、恒暗条件下では明瞭な約24時間周期のサーカディアンリズムを示す蜂が、一定閾値以上の光強度下ではリズムの要素が見られなくなり、明条件が続く限り行動し続けることがわかりました。一方この現象は温帯原産マルハナバチには見られませんでした。
そこで我々は、この特異な現象が北極圏の「白夜」に対する適応ではないか、との仮説を立てました。実際に北極圏(ノルウェーの北緯70度)で、白夜下に現地調査を行った結果、真夜中でも1000 lx以上の照度があり、そんな中、気温が5℃まで下がってもマルハナバチ達が訪花していることを確認しました。これは2005年Nature誌に出た北極圏でのトナカイの報告と似ています。我々はさらに室内実験から、この強光下で継続する活動がリズムのマスキングによること(この際の時計遺伝子の発現解析については後述)、その際の光受容部位が脳ではなく複眼であることを明らかにしました。この強光下に何日でも止まることのない活動は、その間眠らないことを意味しています。ショウジョウバエでは眠らせないと障害が出ることが報告されており、この現象は「脳にとって睡眠とは何か」という視点からも興味深いといえます。
2ピリオド遺伝子の単離と発現解析
異なる光条件下での行動解析から、マルハナバチは恒明条件でも内部時計を維持していますが、その働きが光刺激の入力によりマスクされているとことを示唆する結果が得られました。そこで、時計遺伝子であるperiodをマルハナバチから単離し、その発現レベルを定量PCR法で測定しました。その結果、恒明条件下で活動を続けている場合でも、periodは約24時間周期で振動していることが明らかになりました。光による内部時計のマスキングという新規な概日リズム制御メカニズムが存在することを分子レベルで裏付けました。