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大腸菌の話

一ヶ月ほど前、焼肉チェーン店での集団食中毒が問題になりました。原因となったのは「大腸菌O111」。そして今ヨーロッパでは「大腸菌O104」の感染拡大が懸念されています。病原性大腸菌としてはO157が有名ですが、このO111もO104も腸管出血性大腸菌として知られています。

この「O」と数字は大腸菌の「型」を表していて、人間の血液型と考えるとわかりやすいかもしれません。そしてすべてのA型の人が几帳面であるとは限らないように、すべてのO111やO157の大腸菌が病原性を示すとは限りません。病原性を示すかどうかは、ベロ毒素という有毒なタンパク質を作るか、作らないか、で決まります。

病原性をもつ大腸菌O157のゲノムDNA 配列を調べたところ、普通の大腸菌にくらべて1.2倍長く、普通の大腸菌にはないベロ毒素を作るための遺伝子やその他の病原性遺伝子を持っていたそうです。これらの遺伝子はファージというウィルスによって他の微生物から運ばれ、本来毒性をもたない大腸菌のゲノムに挿入されて、病原性大腸菌が生じたと考えられています。単細胞生物であるバクテリアの間では種を超えて遺伝子のやりとりがおこり、絶えず変化しています。そしてその変化によって、人間にとって有害にも、有益にもなりうるのです。

現在ヨーロッパで大規模感染をひきおこしているO104については新種の可能性が高いと言われています。DNA配列解析を進め、その強い毒性、感染性の原因をつきとめるとともに、他の微生物との接触を抑えるためにも感染拡大をくい止めることが急がれます。

ニュースで注目されているせいもあって、大腸菌というとその病原性ばかりに関心がいきがちですが、病原性を示す大腸菌はほんの一部分です。病原性を示さない大腸菌は人間の腸内にもいて、腸内細菌のバランスを保つことによって健康に役立っています。そればかりでなく、大腸菌はバクテリアのモデル生物であり重要な研究対象です。また遺伝子操作には欠かせない存在であり、医薬品開発など様々な分野で利用されています。私も毎日大腸菌を使って研究しているので、大腸菌には日々感謝しています。

DNAの回収
遺伝子操作で用いる大腸菌
大腸菌からプラスミドDNAをとりだす