2025年6月16日、理化学研究所 革新知能統合研究センター(RIKEN AIP)の橋田浩一先生をお招きし、ソフトウェアサイエンスを学ぶ1年生を対象に「AIによる個人のエンパワメント」と題した特別講義を開催いたしました。本講義は、AI技術の未来とそれが社会に与える影響について、第一線の研究者から直接学ぶ貴重な機会となりました。
講義では、現代社会が抱えるフェイクニュースやダークパターンといった「情報障害」の問題をご指摘いただきました。その上で、これらの問題を根本的に解決する鍵として、個人に最適化された「パーソナルAI」の概念を詳しく解説いただきました。パーソナルAIは、個人のデータを本人の管理下に置いたまま、行政手続きや店舗予約など日常のあらゆるサービスを仲介するものであり、デジタルデバイドの解消や圧倒的な利便性の向上に繋がると説明されました。さらに、この仕組みが普及することで、個人の注意を引いて広告を見せる現代のアテンション・エコノミー(注意経済)を終わらせる大きな可能性を秘めていることをお話しいただきました。
また、パーソナルAIの社会実装に向けた具体的な取り組みとして、熊本県荒尾市で実施予定の実証実験についてもご紹介いただきました。パーソナルAIが持つリスクを管理するため、ISO(国際標準化機構)において、AIが取得したログをユーザー自身が管理・活用する国際標準の策定が進んでいることを解説いただきました。講義後の質疑応答では、学生から寄せられた「AIによる人間の理解力低下」や「思想統制への悪用リスク」といった質問に対し、一つひとつ丁寧にお答えいただき、技術の可能性と課題の両面について議論が深まりました。
10年後には自分たちの生活の中心になっているかもしれない新しいAI技術に触れたことは、これからの大学での学びが、自身の将来にどう活かされ、社会に貢献できるのかを考える大変有意義な時間になったことと思います。
橋田先生におかれましては、ご多忙の中、本特別講義の講師をお引き受けいただき、心より感謝申し上げます。
2025年7月4日 佐藤愛深助手