近年、統合失調症の遺伝学的研究に眼球運動がエンドフェノタイプとして用いられています。眼球運動は遺伝的特徴をよく反映する指標であり、統合失調症が様々な眼球運動課題において特徴的な眼球運動異常を示すことが多く報告されています。
アンチサッケードは統合失調症が特異的な異常を示すだけでなく、その一親等、二親等の家族においてもエラーが多いということが明らかになっています。また統合失調症は前頭葉機能の機能不全も指摘されています。しかしながら前頭葉機能はパフォーマンスを強く反映するという結果も報告されており、統合失調症の病態を直接的に反映したものであるか否かは明確でありません。そこで本研究では、統合失調症が特異的な異常を示すアンチサッケード課題時の健常者と統合失調症の脳賦活パターンをfMRIを用いて明らかにし、両者を比較することで統合失調症の賦活異常を明らかにすることを目的としました。
実験を行った結果、健常者はサッケード課題時に両側frontal eye field (FEF)、 parietal eye field (PEF)、supplementary eye files (SEF)、後頭葉視覚皮質の賦活が認められました。またアンチサッケード課題時にはサッケード課題時に賦活が認められた部位に加え、右dorso lateral prefrontal cortex (DLPFC) 、両側視床(thalamus)、inferior parietal lobule (IPL)の賦活が認められました。一方、統合失調症においては、サッケード課題時に両側FEF、PEF、SEF、後頭葉視覚皮質、DLPFC、thalamus、IPLに強い賦活が認められました。なお、アンチサッケード課題時とサッケード課題との間には賦活の違いがあまり認められませんでした。また、統合失調症のアンチサッケードのエラーの数と視床の賦活の強さの間には有意な相関は認められず、この賦活のパフォーマンスへの影響は少ないと考えられました。
Thalamusは前頭−線条体−視床‐皮質ネットワークの一部であり、このネットワークの障害はこれまでの研究でも数多く指摘されています。本実験の結果も、このネットワークの異常を支持する内容のものであり、感覚情報などのbottom-up信号や注意信号などのtop-down信号の脳内中継領域と考えられるthalamusに異常が観察されたことは、統合失調症における注意制御障害とも関連が深いと考えられます。